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「アトピー様モデルマウス(HR-1)の
経皮水分蒸散量に及ぼす乳脂肪球膜の影響」
-日本農芸化学会 2010年度大会での発表内容詳細-

<研究の背景と目的>

 乳脂肪球膜(Milk Fat Globule Membrane, MFGM)は、乳脂肪を被膜して油相/水相系での乳化に寄与している極めて特殊な膜物質ですが、そのために一般的な乳成分とは大きく異なります。これまでに我々は、バター製造時に発生する水相画分であるバターミルクを原料にした工業的なMFGMの製造方法を開発しておりました。そこで本研究では、MFGMの新たな機能性の探索を行いました。

<研究の内容>

 アトピー様皮膚炎発症Hos:HR-1(HR-1)マウスにMFGM粉末を経口投与させて、背部皮膚の経皮水分蒸散量(Transepidermal Water Loss, TEWL)の上昇および皮膚肥厚に対する経時変化を調査しました。
 4週齢の雄性HR-1マウスに普通飼料を与える予備飼育を1週間行い、その後、表1のように各グループ分けを行ってから6週間の本飼育を実施しました。

表1. 各グループ分けとその飼料構成

グループ名 混合比率(%, 重量あたり)
普通飼料 特殊飼料 *1 MFGM 粉末 乳タンパク質
固形物 *2
無処置群 100
対照群 97 3
MFGM高濃度投与群 97 3
MFGM中濃度投与群 97 0.025 2.975
MFGM低濃度投与群 97 0.0083 2.9917

*1 特殊飼料を摂取することで、アトピー様症状が発症されます。

*2 重量調整のために、脱脂粉乳を調製した粉末を使用しました。

1. HR-1マウス背部皮膚でのTEWLおよび表皮肥厚に対するMFGMの作用

 アトピー様症状を発症させた対照群の背部皮膚では、TEWLの上昇および皮膚の肥厚が認められ、皮膚バリア機能の異常が示されました。この対照群と各MFGM投与群を比較すると、MFGMの投与濃度に依存してTEWLの上昇および皮膚肥厚が有意に抑制されることが認められ(図1-1, 1-2)、MFGMが皮膚バリア機能異常の改善作用を示すことが見出されました。なお、MFGM投与による給餌量および体重への影響は認められませんでした。

図1-1. TEWLに対するMFGMの作用

平均値+標準誤差で示しています(n=12)。
**, vs 無処置群(p<0.01)、#, ##, vs 対照群(#p<0.05, ##p< 0.01)。

図1-2. 6週経過後の背部皮膚の肥厚に対するMFGMの作用

平均値+標準誤差で示しています(n=12)。**, vs 無処置群(p<0.01)、##, vs 対照群(p<0.01)。

2. 作用メカニズムの解析

 6週経過後の背部皮膚を対象に遺伝子発現解析を行いました。DNAマイクロアレイ解析から対照群とMFGM高濃度投与群を比較すると、皮膚バリア機能関連遺伝子、特に周辺帯構成遺伝子群の有意な発現変動が認められました。2ステップリアルタイムPCRによる周辺帯構成遺伝子群の発現量比較解析を行ったところ、皮膚バリア機能の異常が確認された対照群では、周辺帯構成遺伝子群の発現量が無処置群に比べて有意に増加しており、MFGM高濃度投与群ではそれら発現量が無処置群に近づくことが見出されました(図2)。

図2.  6週経過後の背部皮膚での周辺帯構成遺伝子群の発現に対するMFGMの作用

平均値+標準偏差で示しています(n=5)。
*, **, vs 無処置群(*p<0.05, **p< 0.01)、#, ##, vs MFGM高濃度投与群(#p<0.05, ##p< 0.01)。
Ivl :インボルクリン、Sprr :スモールプロリンリッチプロテイン

MFGMのHR-1マウスに対する一連の結果を以下にまとめます。
・皮膚バリア機能が異常な背部皮膚でのTEWLの上昇および皮膚肥厚を濃度依存的に抑制した。
・皮膚バリア機能形成に重要な周辺帯構成遺伝子群(Sprrs , Ivl )の発現調節によりバリア機能改善作用を発揮した。

今後は、ヒトでの肌質改善効果を発表する予定です。

*参考 -皮膚のバリア機能について-

 皮膚は表皮で覆われており、表皮は内側から基底層、有棘層、顆粒層および角質層から構成されています。角質層は外界との接点に位置する組織であり、また周辺帯は、角質層を構成する角質細胞の膜として様々な物理的、化学的障害から生体を保護する働きを担っています。このように、皮膚がバリア機能を発揮するためには、構成する物質が正常に形成される必要があります。インボルクリン、SPRRは、周辺帯を構成する不溶性のタンパク質で、特にSPRR遺伝子はマウスで10数種類のよく似た遺伝子が存在します。

以上