健康で効率的な乳牛の飼養管理
第1回:乳からわかる乳牛の健康と
飼養管理への応用
乳牛を健康に飼うためには、日々の体調の観察や定期的な健康検査が重要です。体調管理や健康検査に用いられるものとして、乳、血液、尿、糞などがあります。これらを用いて細かい検査を行えば、不調の原因や生産向上の糸口が見つかる可能性がありますが、現場としては迅速かつ経済的な検査であることが望まれます。最近では、オンファーム(農場内)やカウサイド(ウシのそばで)で検査できるツールも開発されつつあり、「乳牛の内なる声」を聞きやすくなりました。本シリーズでは、子牛を含めた乳牛の手軽な健康管理ツールやその応用について紹介していきたいと思います。
2026年1月から北海道の牛群検定は、帳票のレイアウトが変更され、項目の配置変更や、新しいデータが追加されました。また、脂肪酸割合データも加わりました。
乳脂肪に含まれる脂肪酸(FA)はデノボFA(C4:0~C16:0)、主にC16:0を含むミックスFA、プレフォームFA(C18:0~)の3区分に分けられます。表1のとおり乳のなかに含まれる脂肪酸の割合は個体によって変動が大きく、乳牛のルーメンの状況や健康状態を反映しています。
表1. 乳中の脂肪酸割合について

デノボFAは乳腺で新規合成(デノボ合成)された脂肪酸で、エサの炭水化物がルーメンで消化された発酵産物=揮発性脂肪酸(VFA)が原料です。VFAは、主に酢酸(C2:0)・プロピオン酸(C3:0)・酪酸(C4:0)からなり、このうち乳脂肪になる(デノボ合成につかわれる)ものは酢酸と酪酸です。プロピオン酸は乳脂肪にはなりませんが乳糖の原料になり、乳量に貢献します。デノボ合成とは、酢酸などの短い脂肪酸(短鎖脂肪酸)が伸長して中鎖(C8~C12)や長鎖脂肪酸(C14~)を作る活動です。
デノボ脂肪酸の量を増やす要素は大きく2つあり、しっかりとエサを食べていることと、ルーメン発酵が正常であることがあげられます。前者は、VFAの材料となる炭水化物を十分に得るために必要です。後者について、ルーメンpHが低い場合には、ルーメン中で微生物の働きによって、ある種のトランス脂肪酸や共役リノール酸が増加し、乳腺のデノボ合成を強力に阻害します。ルーメンアシドーシスによって乳脂肪合成が低下する原因は主にこれらの脂肪酸の影響であると考えられています。実際に、ルーメンpHが低い時間が長い乳牛は乳デノボFAも低いことが示されています(図1)。
図1.ルーメンpHが低い時間の長さと乳デノボ脂肪酸割合の関係性(引用文献1より)

一方、プレフォームFAには飼料由来の脂肪酸とエネルギー不足時に燃やされた体脂肪由来の脂肪酸が多く含まれます。プレフォームFAはとくに分娩後のエネルギー不足(摂取エネルギーよりも多くのエネルギーを乳生産に利用する)時に高くなりやすいです。牛群検定で表記されているデノボFAとプレフォームFAは、全脂肪酸を100とした場合のパーセンテージで示されているため、デノボFAが低い場合、デノボFAの合成が少ないか、体脂肪動員が激しく、プレフォームFAが増加しているかが考えられます。
デノボFAはルーメン環境や体脂肪動員状況で変動が大きく、特に分娩直後は低くなりやすいです。私たちの研究室では、分娩後1週間目の乳デノボFAの値で乳牛の健康状態やその後の成績がどうなるかを評価しました。成績は表2のとおりで、1週目にデノボFAが低かった(21.1%以下)乳牛は産次問わず難産スコアが高く、特に初産牛においては、分娩後の空胎日数が有意に長くなりました。表には記載していませんが、分娩後150日以内に受胎できた乳牛の割合も中デノボ(21.2~28.4%)+高デノボ牛(28.5%~)は64%だったのに対し、低デノボ牛は36%しかいませんでした。
表2.分娩後1週目のデノボ脂肪酸割合が305日期待乳量、空胎日数および難産スコアに及ぼす影響

また、血中の代謝物(グルコース・非エステル型脂肪酸(NEFA))やインスリン様成長因子-1(IGF-1)というホルモンの推移を追跡しました。低デノボ牛は血糖値が低く、分娩後にNEFAが大きく上昇していました。NEFAは体脂肪が燃やされる量が多いほど血中濃度が高くなります。低デノボ牛は他の区分の牛よりも多くの体脂肪を燃やしていたため、デノボFAが低くなっていたと伺えます。IGF-1というホルモンは、栄養状態が悪くなると低くなり、乳生産や繁殖成績とも関係します。低デノボ牛は分娩時から大きく落ち込んでいたことから、分娩後1週目のデノボFAの値は牛個体の状態をよく反映しています。(図2)
図2.分娩後1週目におけるデノボFA区分による血中代謝物やホルモン濃度の推移(引用文献2より)

血液成分は乳牛の健康状態を迅速かつ的確に示すことができますが、分析に時間や費用がかかる項目も多く、採血作業の必要があります。デノボFAで乳牛の不調の原因が全て把握できるわけではないですが、ルーメン環境の悪化、採食不足、過度な体脂肪動員が生じていることを迅速に知ることができる有益な項目です。今後、デノボFAを活用した牛群管理方法が発展し、乳牛の健康管理が向上することが望まれます。
【引用文献】
1. Fukumori R., Shi W., Oikawa S., Oba M. 2021. Evaluation of relationship between ruminal pH and the proportion of de novo fatty acids in milk. JDS communications. 2: 123-126.
2. Fukumori R., Shoji J., Gondaira S., Oikawa S. Association of milk de novo fatty acid proportion of the first week postpartum with productivity and plasma IGF-1 and GLP-1 concentrations in dairy cows. Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition (in Press)


