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長命連産と良質乳生産の両立
~現場データから探る持続可能な酪農経営~

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第1回:現場データから見る乳質と
長命性の関連

岡山理科大学 獣医学部 准教授後藤 聡

はじめに

日頃より良質な生乳生産にご尽力されている生産者の皆様に、心より敬意を表します。近年、飼料価格や資材費の高騰など、酪農経営を取り巻く環境は一層厳しさを増しています。こうした状況下で経営を安定させるためには、単なるコスト削減だけでなく、牛一頭一頭の健康を守り、できるだけ長く活躍してもらう「長命連産」と、出荷乳の価値を高める「良質な乳生産」をいかに両立させるかが重要な課題となります。
本誌では全4回にわたり、北海道東部の実際の酪農場データに基づく疫学研究の成果をご紹介します。本研究は、よつ葉乳業へ生乳を出荷されている生産者様の牛群検定記録を用いて実施しました。第1回では、「乳質と牛の寿命には関連があるのか?」という基本的でありながら経営に直結する問いを出発点に、地域全体のデータから見えてきた実態について解説します。

北海道酪農の現状

持続可能な酪農経営の実現には、乳牛の供用期間を延ばし、生涯生産性を高めることが不可欠です。しかし北海道では、除籍産次が2010年の3.61産から2020年には3.37産へと低下し、この10年間で牛の供用期間は着実に短縮しています。その一方で、乳質の代表的指標である牛群体細胞数(SCC)は、過去10年間おおむね22万個/mL前後で推移しており、大きな改善傾向はみられていません。乳房炎は淘汰理由の上位を占める疾病であり、乳質が悪化すれば牛の寿命は短くなると考えるのが自然です。もし乳質改善がそのまま長命化につながるのであれば、経営改善の方向性はより明確になります。そこで本研究では、実際の牛群検定記録を用い、「乳質」と「長命性」の関係を検証しました。

乳質の実態と地域差

解析では、乳質の指標として牛群SCCと慢性乳房炎有病率を採用しました。慢性乳房炎は「体細胞数が2か月以上20万個/mLを超えて持続している牛」と定義し、牛群内に占める割合を算出しました。長命性の指標には、4産以上牛の割合と平均産次を用いています。
基礎分析として地域差や経営規模との関連を確認したところ、搾乳形態による有意差は認められませんでしたが、地域間および規模間で乳質のばらつきが確認されました(表1)。特に小規模牛群では慢性乳房炎有病率が高い傾向がみられ、飼養環境や管理体制の違いが影響している可能性が示唆されました。さらに、牛群SCCが高い農場ほど慢性乳房炎牛の割合も高いという強い正の相関が確認されました(表2)。慢性牛は臨床症状が目立たず見逃されやすい存在ですが、群内に一定割合が滞留することでバルク乳SCCの高止まりを招く要因となります。慢性牛の早期把握と計画的な更新判断が、乳質改善の重要なポイントであることが改めて示されました。

表1. 各変数における長命性と乳質指数の要約統計量

表1. 各変数における長命性と乳質指数の要約統計量

表2. スピアマンの順位法による長命性指数と乳質指数の相関行列

表2. スピアマンの順位法による長命性指数と乳質指数の相関行列

意外な結果 ― 乳質と長命性は単純ではない

本研究で最も注目すべき結果は、「乳質が良い牛群ほど長命である」という明確な関連が認められなかったことです。私たちは当初、「乳房炎が少ない農場では牛への負担が少なく、結果として長命連産が実現しているはずだ」と仮説を立てていました。しかし解析では、「乳質が良い=長生きする」「乳質が悪い=短命」という関係は確認されませんでした。
その背景には、農場ごとの淘汰判断の違いがあると考えられます。乳質管理が徹底されている農場では、慢性牛を感染源として残さないために早期淘汰を行い、繁殖基準も厳格に設定している場合があります。その結果、牛群の水準は高く維持されますが、平均産次は必ずしも高くなりません。一方、後継牛不足や経営事情により、乳房炎を繰り返しながらも治療を重ねて長期飼養するケースもあります。その場合、在籍期間は長くなりますが、それが必ずしも健康で効率的な状態を意味するわけではありません。つまり、牛の長命性という指標は、生物学的な健康状態だけでなく、経営方針や淘汰戦略といった「人の判断」によって大きく左右されるのです。長く生きていることが、そのまま管理水準の高さを示すとは限らない-今回の結果は、その現実を私たちに示しています(図)。

図 乳質と長命性の関連性検証; 道東 164 農場 3年間 検定記録解析

本研究は、乳質改善の重要性を否定するものではありません。しかし同時に、単一の数字だけで農場を評価することの難しさも示しています。数字の背景にある管理方針や更新戦略まで含めて考えることが、これからの酪農経営にはより一層求められているのではないでしょうか。
次回は乳質が良い牛群について、死亡率や淘汰率との関係性について解説します。

本稿は、以下の学術論文を生産者様向けに要約・翻訳したものです。詳細なデータや解析手法については、原著論文をご参照ください。

Goto et al. Association between somatic cell count or morbidity of chronic subclinical mastitis and longevity in dairy herds in Eastern Hokkaido, Japan: a cross-sectional study. (2024) The Journal of Veterinary Medical Science, 86(1), 1–6.