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長命連産と良質乳生産の両立
~現場データから探る持続可能な酪農経営~

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第2回:乳質改善は“牛を快適にする管理”から
―牛群の乳質と淘汰・死亡率との関係―

岡山理科大学 獣医学部 准教授後藤 聡

はじめに

本稿では、前回に引き続き、北海道東部の牛群検定加入酪農場164戸を対象とした調査結果をもとに、乳質と牛群成績との関係について紹介します。3年間の牛群体細胞数と慢性乳房炎有病率から、乳質が継続的に良好な農場を「上位群」、慢性的に不良な農場を「下位群」に分類し、その特徴を比較しました。

乳質下位農場でみられた特徴

下位群では、上位群に比べて分娩後60日以内および200日以内の淘汰率が有意に高く、死亡率も高いことが分かりました。また、年間淘汰率そのものには大きな差がみられなかった一方で、淘汰牛に占める死亡牛の割合は下位群で有意に高く、病気や事故による「不本意淘汰」が多い傾向が認められました。分娩後は、エネルギー不足や免疫機能の低下により、牛にとって最も負担の大きい時期です。こうした生理的変化に飼養環境や管理条件が重なることで、乳房炎をはじめとする疾病が発生しやすくなり、その結果として治療や淘汰の増加、生産性の低下につながります。つまり下位群では、生産能力を十分に発揮する前に牛が離脱している可能性があります。能力の高い牛を長く飼養することは酪農経営の基本ですが、疾病や事故による早期離脱は更新費用の増加や乳量低下を招き、経営的な損失につながります(表1)。さらに、不本意淘汰の増加は牛群の計画的な更新にも影響を及ぼす可能性があります。これらの結果から、乳質下位農場の課題は乳房炎対策だけでなく、周産期管理や疾病予防、死亡率の低減を含めた牛群全体の健康管理に及んでいることが示唆されました。そのため、乳質改善には乳房炎対策とあわせて、周産期疾病の予防や飼養環境の整備を総合的に進めることが重要です。

表 1. 2020年度 乳質別の各生産指標の要約統計量

表 1. 2020年度 乳質別の各生産指標の要約統計量

地域格差との関係

本研究では、地域によって乳質の分布に差がみられました。特定の地域では下位群の割合が4割を超え、他地域より有意に高い結果でした(表2)。このことから、地域ごとの飼養管理や生産支援体制の違いが、乳質に影響している可能性が示唆されました。乳質改善には個々の農場の努力だけでなく、地域全体での取り組みも重要と考えられます。また、乳質が良好な農場では、衛生管理や牛の観察が継続的に実践されていると推測されます。こうした日々の管理の積み重ねや生産者の意識の違いが、乳質や牛群成績の差として現れているのかもしれません。

表2.各地域における乳質別牛群分布

表2.各地域における乳質別牛群分布

アニマルウェルフェア(動物福祉)の重要性

近年、「アニマルウェルフェア」という言葉を耳にする機会が増えています。牛群の死亡率の高さは、健康管理や飼養環境に課題がある可能性を示す指標の一つです。不衛生な環境や過密飼養、周産期管理の不備などは、乳房炎だけでなく牛群全体の健康状態にも悪影響を及ぼします。つまり、乳質の問題は「乳房だけ」の問題ではなく、牛群全体の管理状況を反映しているといえます。アニマルウェルフェアへの関心が高まるなか、牛にとって快適な環境を整えることは、単なる倫理的配慮ではありません。疾病を減らし、生産性を高め、長命連産を実現するための重要な経営管理です。特に周産期管理や牛舎環境の改善は、疾病予防と乳質向上の両面で大きな効果が期待されます。乳質改善や健康管理は、一度の対策で達成できるものではありません。分娩前後の観察、寝床環境の整備、適切な乾乳管理など、基本的な飼養管理を着実に積み重ねることが重要です。その継続が、牛群の健康維持と良質乳生産の基盤となります。

まとめ

乳質改善というと、搾乳手順やディッピングなどの乳房炎対策に目が向きがちです。しかし本研究では、乳質下位農場ほど分娩後早期の淘汰率や死亡率が高く、牛群全体の健康管理に課題を抱えている可能性が示されました。つまり、乳質は乳房だけの問題ではなく、周産期管理や日常の飼養管理を含めた牛群管理全体の成果を反映する指標と考えることができます(図1)。牛が健康で快適に過ごせる環境を整えることは、乳質向上だけでなく、不本意淘汰の減少や長命連産にもつながります。良質乳生産の基盤は、牛の健康と快適性を支える日々の飼養管理にあるといえるでしょう。

図 乳質は牛群管理全体の成果を反映する指標

本稿は、以下の学術論文の内容をもとに、生産者様向けに分かりやすく解説したものです。詳細なデータや解析手法については、原著論文をご参照ください。

Goto et al. Association between Hygienic Milk Quality and Culling Rate or Mortality in Dairy Herds: A Cross-Sectional Study in Eastern Hokkaido, Japan. (2025) Japan Agricultural Research Quarterly 59 (4), 321-326