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酪農経営の分析と改善の手法

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No3 みんなで交流して経営を改善しよう
-マイペース酪農交流会を例に-

酪農学園大学教授吉野宣彦

前回は、多くの酪農経営で収益性を高めようとして外部に依存した結果、資材価格高騰の影響を強く受け、収益性は逆に低下したことを示しました。この悪循環から抜け出すにはどうすべきでしょうか? 今回は、集団的に収益性を高めた実践事例をもとに示します。

1.高収益性農家の変化

図1には、2022年時点で収益性が高い農家事例の経過を、全体の分布と合わせて示しました。この図により努力の経過が少し見やすくなるでしょう。経産牛頭数は拡大・維持・縮小と多様ですが、共通して収益性を高めたことが確認できます。つまり元は高収益でなかったこと、収益性の低さは運命ではなく、変えられることが事実です。その経過は創意・工夫・努力の積み重ねです。この中で自分に合ったやり方を共有すると、多くの農家で経営の改善と持続が可能になります。

図1 経産牛と農業所得の相関図と高収益性事例
(全体2022年、事例2004-2022年)

図1 経産牛と農業所得の相関図と高収益性事例(全体2022年、事例2004-2022年)

2.集団的な経営改善の成果

ここでは道東をベースに活動しているマイペース酪農交流会というグループの改善経過を示します。図1の事例中3戸、40頭クラスから150頭規模を含み、昼夜放牧を活用しています。多様な地域、規模や形態に適した取り組みを、皆で明らかにするために例示します。この交流会の主要メンバーは1970年代からおおむね年1回の学習会を続けていましたが、1990年代初頭に月1回の交流会を開始しました。発表や対話を記録・公表し続けており、この時期に一斉に改善が進んだため、経過を明確にできます。この経験を踏まえて他の地域でも新しい取り組みを生み出せたら良いと思います。まずメンバーのうち12戸が転換した1990~93年の変化を確認します。
図2には、収益性(クミカン農業所得率)の変化を示しました。当初は20%に満たない農家も含め皆40%以上になりました。図3には、乳牛飼養頭数の変化を示しました。多くがとくに育成牛を減らしました。図4には、換算頭数当たりの購入飼料費を示しました。多くが意識的に削減しました。図は収益性の順で配列しました。おおむね左側の収益性の低かった農家ほど大きく変化しました。面積当たり頭数、頭数当たり購入飼料費を減らして収益性を高めました。個体乳量は多くで減りましたが、それ以上に支出が減少して収益性が高まりました。
1993年に開かれた年次学習会での女性の次の実践発表(一部省略)はこの時の様子を鮮明にしてくれます。経営だけではなく、生活スタイルを見直す切実な意思を感じられます。
「規模拡大に向かって走り続けて忙しかったなぁということだけが10年の間の思い出。

図2 収益性の改善(クミカン農業所得率)

図2 収益性の改善(クミカン農業所得率)

すごく忙しくて、牛舎に入り浸り。本来なら母親だから、家に帰って『さあ子どもたちご飯食べましょうね』というエネルギーがあるはずなんですけど、家に上がりたくないくらい疲れていました。月に一回開かれる交流会では『牛、減りましたか、よかったですね』と始まるんです。そういう中で3年目にして意識も固まり、14ヶ月前後の牛を6頭ポンと売りました。残った育成にちゃんと手をかけてあげられるなぁととても気持ちがすうっとしたことを覚えています。適正規模にすることが環境を守る、次の世代にきちんと農業をわたしていけることに確信持ったんですね、学習をすることによって」
今ではメンバーの多くが後継者に移譲し、交流会に新規参入者が多数参加して独立し、各地に交流会ができし、ネットワークが全道に広がり、多くの成果を得ています。

3.「マイペース酪農交流会」の取り組み

この取り組みは以下の計画・実施・評価の3点に要約できます。
第1に改善計画の目標は、実在する農家であり明確でした。あるメンバーが面白い農家がいるから、と皆で三友盛行さんを訪ねました。経産牛40頭、育成牛10頭、面積48haと小規模で、昼夜放牧。個体乳量5,500kgと低い生産性ですが、農業所得率は50%を超え、大規模なメンバーより大きな所得額でした。適正規模は1頭1haをルールとしていました。三友さんの発言、実践、成果に一貫性があり、一緒に月例の交流会を始めることになりました。
第2に実施の方法は、経営と生活全般におよび、五感を使い、相互に対等でした。会には夫婦で参加し、特に講師は決めず、自由に討論されました。フィールドミーティングで互いの農場を、草地を含めて観察しながら、各自のペースで改善が進みました。
第3に評価の方法では、情報を公開し、フィードバックを続けました。交流会の討論は克明に記録され「交流会通信」として300名以上に配布され30年を超えています。年次学習会では、コロナ禍での中断を除き、継続して主要メンバーの経営収支を公開しました。農協とメンバーの平均も比較しています。

図3 飼養頭数の減少

図3 飼養頭数の減少)

4.大きな目標の共有

今日まで交流会が30年以上続く理由には、酪農と地域を維持する大目標が次の様に持続したことがあげられます。
まず「マイペース酪農」という言葉は、会の主要メンバーが1970年代に取り組んだ「労農学習会」の資料が初出です。「誰にも振り回されずマイペースの酪農を進めてゆくにはお互いの経営状況を公開し合い、相談しあうこと、又そういうことをざっくばらんに話し合える場こそ第一に必要だと考えます」。この考えが20年後に実現しました。
また70年代は開拓の終わりで、バルククーラーが普及し離農が進む「淘汰」の始まりでした。農協の合併、学校の統廃合など、生活インフラが縮小しました。農業者だけではなく地域住民が共通して農村の維持を課題と思い「労農学習会」が始まりました。
いま酪農経営とともに農村の持続性に誰もが「危機」を感じています。みなが協力して動き出すべき時代でしょう。
次回は少し理論的に分析と改善について整理します。

【参考文献】
吉野宣彦(2008)家族酪農の経営改善、日本経済評論社。
三友盛行(2000)マイペース酪農、農文協。

図4 換算頭数当たり飼料費の削減

図4 換算頭数当たり飼料費の削減