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No3 自発性酸化臭 ~乳中脂肪酸組成と発生メカニズムについて~

北海道大学 大学院農学研究院 准教授三谷 朋弘

  今回のテーマは、「自発性酸化臭」です。自発性酸化臭は時限爆弾的異常風味とよばれ(筆者が勝手にですが)、非常に厄介な異常風味です。時限爆弾的というのは、酪農家が生乳を出荷した時点では問題なくとも、運搬時もしくは冷蔵保管時に徐々に進行、乳業者での受入れ時には顕著になり受け入れ拒否となることがあるからです。この異常風味がいざ発生すると、酪農家と乳業者の間に入る農協や生乳販連などで、どこに責任が、となるので非常に厄介です。ですので、なるべく早い段階(酪農家)で、対策・予防することが重要です。今回は自発性酸化臭の発生メカニズムと、それに関連深い乳中の脂肪酸組成について解説します。

乳中の脂肪酸がどのようにできるか

  乳脂肪の約95%(脂肪球の中身)は中性脂肪(トリグリセリド)でできています。トリグリセリドとは、グリセロールというアルコールに3つの脂肪酸がくっついたものです。脂肪酸とは、炭化水素鎖(CH3-CH2-・・・)にカルボキシル基(-COOH)が結合してできた炭水化物で、C〇:△(〇=炭素の数、△=二重・不飽和結合の数)と表現されます。C16:0であればパルミチン酸、C18:2はリノール酸です。牛乳中には400種類以上の脂肪酸が含まれているといわれていますが、主なものは14種類程度です。

  最近、牛群検定やバルク乳の旬報で、デノボ、ミックスド、プレフォームドという項目を目にすることが増えたと思います。これはなんだろうと思っていた方も多いと思いますが、これが乳中脂肪酸です。これらはその由来に基づき複数の脂肪酸を足し合わせたものです。それぞれの合成経路を簡単に示すと、図1のようになります。

図1.脂肪酸の合成経路

図1.脂肪酸の合成経路

  デノボは、新規合成という意味で、乳腺細胞の中で新たに作られる脂肪酸のことを指します。デノボ脂肪酸の原材料は、反芻胃内で合成された揮発性脂肪酸(VFA)中の酢酸と酪酸です。乳腺細胞では酪酸(C4:0)がまず作られ、それに炭素が二つずつ伸びていき、パルミチン酸(C16:0)まで合成できます。この反応にはVFA中の酢酸が重要になります。この酢酸は主に飼料中の構造性炭水化物(繊維)を基に微生物が産生するため、摂取した粗飼料の量と質が強く影響します。そのため、現在デノボ脂肪酸は粗飼料摂取の指標になりうると考えられています。

  次に、プレフォームド脂肪酸です。プレフォームドは、「元々形成されていた」という意味で、飼料に含まれていた脂肪酸が材料です。飼料中には、C16以上の脂肪酸(C18が多い)が含まれています。C18以上の脂肪酸は間違いなく飼料に由来する脂肪酸なので、C18以上の脂肪酸をプレフォームド脂肪酸と呼んでいます。ここで勘の良い人はお気付きだと思いますが、C16の脂肪酸は、デノボ、プレフォームドいずれにも由来します。ということで炭素数16の脂肪酸は、どっちつかずの脂肪酸ということでミックスド脂肪酸と呼ばれています。

  ただ、この大まかな脂肪酸の3分類では、自発性酸化臭との関連を説明できません。不飽和脂肪酸に触れないわけにいきません。乳牛が食べる飼料中の脂肪酸はC18の脂肪酸がほとんどで、特に複数の不飽和結合を持つ脂肪酸(多価不飽和脂肪酸)が多く含まれています。飼料によりその割合は異なり、イネ科やマメ科牧草にはリノレン酸(C18:3)、トウモロコシなどの穀実や大豆にはリノール酸(C18:2)が多く含まれています。しかし、これらの脂肪酸がそのまま牛乳にはでてくることはありません。

  反芻胃内では、摂取した不飽和脂肪酸は基本的に飽和化(水素添加)する運命にあります。反芻胃内微生物、特に繊維分解菌が繊維を分解するときに生じた水素(H)を不飽和脂肪酸にくっつけるためです。リノール酸(C18:2)を例にすると、リノール酸(C18:2)はバクセン酸やオレイン酸(C18:1)、最終的にはステアリン酸(C18:0)にまで飽和化され、吸収、乳脂肪の合成に使われます(図2)。ただし、これは反芻胃内の状況が通常に機能しているとき(反芻が通常に行われ、pHが高い)であり、通常に機能していない場合(反芻が少ない、pHが低い、アシドーシス気味)は、そのまま反芻胃を通過するため、リノール酸(C18:2)など多価不飽和脂肪酸が増加します。この多価不飽和脂肪酸がポイントになります。

図2.反芻胃内における脂肪酸の変化

図2.反芻胃内における脂肪酸の変化

自発性酸化臭の発生メカニズムと予防策について

  自発性酸化臭の指標物質はヘキサナールというアルデヒドで、段ボール臭、マメ臭などと表現される異常風味です。乳脂肪に含まれる多価不飽和脂肪酸が原材料となります。多価不飽和脂肪酸の不飽和結合は酸化(酸素と結合)しやすく、不飽和脂肪酸は3段階ほど酸化が進行し、最終的にこの過酸化脂質に金属イオンや酵素が反応し、ヘキサナールができます(図3)。

図3.自発性酸化臭の発生経路

図3.自発性酸化臭の発生経路

  この反応が厄介なところは、それぞれの段階の過酸化脂質が自分自身の合成を促進する点にあります。ですので、一度この酸化が進行しはじめるととめどなく過酸化脂質がつくられ、ヘキサナールの濃度がどんどん上昇することになります。しかもこの反応は冷蔵下、バルクタンク内やクーラーステーションでも進行し、非常に厄介です。ただし、ビタミンEなどの抗酸化物質は、この連鎖反応を抑制することが分かっています。

  数年前、この異常風味について全国調査を実施しました。その結果、当然ですが、原料となる多価不飽和脂肪酸、特にリノール酸が高い牛乳は酸化しやすく、抗酸化物質であるビタミンEが高い牛乳は酸化しづらいことが分かりました。その後、どのような飼養条件で発生しやすいかを調査すると、配合飼料や食品副産物を多給している農家でリスクが高まることが分かりました。これは、上記の脂肪酸合成のメカニズムで述べたように、穀類などの多給によりリノール酸摂取量が増加し、かつ反芻胃の状況が悪化したためです。

  では、いざ発生した場合にどのような対策が有効かというと、まずはビタミンE製剤を給与して対処してくださいと伝えることが多いです。ただし、ビタミンE製剤は比較的価格が高いため予防的に常々多く給与することは勧められません。やはり、基本的な飼料構成を見直すことが重要です。筆者は、「自発性酸化臭」の発生は、酪農の現代病、成人病のように感じています。反芻動物である乳牛を健全に飼う、反芻をちゃんとできるような飼料をしっかり与えることが重要だと思っています。