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繁殖改善に向けて!

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第1回 牛群検定から見る
現場に役立つ繁殖情報(その1)-分娩間隔について-

(一社)家畜改良事業団 情報分析センター次長相原 光夫

牛群検定は、昭和50年2月に開始されたわが国酪農の根幹を支える事業です。いろいろな繁殖の課題を、牛群検定データから読み解くことができます。北海道内の牛群検定データを参照しながら、農家各戸の繁殖に関する課題を洗い出していきたいと思います。

1.分娩間隔と乳量
~現代酪農では乳量と繁殖成績は両立可能~

平成元年における北海道の分娩間隔は399日でしたが、27年は427日と大きく延長しています。一方で、北海道の305日乳量を見ると元年は7,818kgだったものが、27年には9,417kgと大きく伸びています。このように繁殖成績と泌乳成績を並べてみると、この二つの能力は対立して見えることから、「乳量が伸びれば繁殖は悪化する」という見方をされがちです。また、乳量が多いということは、母体への生理的負担が大きいことも事実ですから、ある意味では説得力があります。しかし、この話は「乳量と繁殖は両立しないから、諦めろ」という意味ではありません。
図1に、最近に限った分娩間隔と305日乳量の推移を示しました。
ここから分かるように、ここ近年は泌乳能力を伸ばしながら繁殖成績も改善するという推移となっています。現代の酪農では「乳量と繁殖を両立させて、共に改良・改善する」という新しい時代に突入しています(図1)。

図1 近年の305日乳量と分娩間隔の推移

図1 近年の305日乳量と分娩間隔の推移

2.分娩間隔延伸の実情と対策の着眼点

図2に、分娩間隔の分布を示しました。この図は、検定牛1頭ごとの分娩間隔を分析したもので、縦軸は頭数となります。分娩間隔を議論するときは一般に平均値が用いられますが、それには注意が必要です。この図の分娩間隔の分布は偏った分布となっており、平均値427日は右側の山をかなり下った所に記されています。また、ここでいう中央値404日とは、北海道の検定牛の半数となる頭数が分娩間隔404日以下であるという意味になります。分娩間隔404日以下はかなり優秀な成績ですから、逆に言えば北海道の検定牛の半数の繁殖成績は優秀だということになります。なお、最頻値350日とは、一番多い頭数となった分娩間隔が350日という意味です。
この図から大切なことが分かります。分娩間隔そのものについては良好な検定牛が大半で、400日を下回る検定牛も珍しくない。つまり、平均分娩間隔を延伸させている原因は500日とか600日といった検定牛にあるということです。
「分娩間隔が延伸しているから改善しないといけない」と考えたとき、「餌を変えよう」とか、「受胎率を高める方法は」というように、牛群全般を改善する取り組みを考えがちです。もちろん、このような取り組みはとても大切なことですが、まず目の前の課題として、分娩間隔500日とか600日といった検定牛を出さないこと、早期に手当てすることが先決となります。
大半の検定牛は繁殖優秀なわけですから、なかなか受胎しない特定の牛に気を付けるというだけで大きな改善効果が期待されます。そのためには受胎率も大切ですが、分娩後60日頃からの早期の授精開始、発情発見率の向上といった「繁殖の基本」に忠実に取り組む必要があることが示唆されます(図2)。

図2 分娩間隔の度数分布

図2 分娩間隔の度数分布

3.検定成績表で見る繁殖成績の良否

ここまで記したことは、検定農家の皆さんに届けられる検定成績表を使っても分かります。
図3は、検定成績表のうち1枚目の農家成績の中央右に記された「分娩間隔」です。分娩間隔の成績は、日数別に区分されています。この例の農家の場合、平均分娩間隔は435日と決して良好とは言えません。しかし、分娩間隔395日未満となる良好な繁殖成績の検定牛は多数存在し、42%を占めていることが分かります。この農家の分娩間隔が延伸してしまっている原因は、分娩間隔が455日以上となる検定牛が35%もいることにあるのは明白です。この農家において繁殖改善をするには、極端に分娩間隔が延伸した検定牛を出さない、もしくはその割合を下げることが最も必要です。また、指導関連の人ならば、分娩間隔400日以下の牛が多数いることを褒めることも忘れてはいけません。
また、分娩間隔で「2産」の分娩平均が451日と、ほかの産次と比べて飛び抜けて延伸しています。2産の分娩間隔とは、初産と2産の間のものですから、初産時での授精結果です。このことから、初産の授精状況が悪いことを意味しています。初産牛の飼養管理、闘争(いじめ)、食い負けなどをチェックする必要があります。
分娩平均の隣に「予定平均」という欄がありますが、これは現在妊娠中の検定牛が将来分娩したときの分娩間隔です。435日→427日ですから、繁殖改善が多少進んでいることになります。しかしながら、2産の検定牛の予定平均は451日→428日と大きく改善が進んでいます。すなわち、初産牛の授精状況が好転している例となります。指導関連の人は「435日が悪い」と指摘するだけでなく、このような悪いながらも良い傾向に改善が進んでいることも指摘するようにしてください(図3)。

図3 あなたの検定成績表

図3 あなたの検定成績表

4.分娩間隔データ活用の注意点

今回は「分娩間隔」をキーワードに、北海道レベルと各農家レベルの両面から繁殖の課題を探ってみました。全道での課題が、各農家でも共通の課題であることを理解いただけたことと思います。
さて、今回のキーワードである「分娩間隔」は、繁殖成績としてよく知られている代表的な概念です。しかし、分娩間隔を活用するには、幾つかの注意点がありますので補足解説します。

(1)2産以上の繁殖成績であること

当たり前のことですが、分娩間隔は分娩と分娩の間隔を日数で示したものです。従って、個体レベルで見れば、2産以上の経産牛だけの繁殖成績となります。未経産牛や初産牛の繁殖成績は数字に加味されていません。未経産牛や初産牛は、牛群全体から見れば最も多い頭数となるグループです。この最大グループを加味していない分娩間隔という繁殖成績だけで、農家の繁殖技術全体を議論することはできません。

(2)古い繁殖成績であること

「繁殖成績」とは何でしょうか? 効率良く妊娠、出産させているかどうかという繁殖技術を示すことが繁殖成績です。ですから、分娩間隔は短いほど良いわけです。しかし、分娩間隔を短くする要因は、受胎するまでの日数(空胎日数)となります。農家の繁殖技術としては、空胎日数が評価されていることに等しいわけです。すると受胎が成立し、空胎日数が確定してから280日も経過して示される分娩間隔は、1年近くも前の古い繁殖成績と言わざるを得ません。逆に言えば、農家が繁殖改善に一生懸命取り組んだとしても、その成果が分娩間隔に反映するのは約1年後となってしまうことを意味します。技術指導では十分注意しなければなりません。
このことをカバーするために、牛群検定では図3に示したとおり「予定平均」を示し、空胎日数が確定した妊娠牛が将来出産したときの分娩間隔を示しています。

(3)受胎、分娩しない牛は加味されないこと

現在、農家を悩ませる大きな繁殖の問題は、実は分娩間隔ではなく、何度授精しても受胎しない牛(リピートブリーダー)です。分娩間隔は、受胎して分娩しなければ数値に反映しません。受胎しないこと、すなわち繁殖障害を理由に淘汰される牛は、分娩間隔では分かりません。ただし、こういった牛が多い牛群は、最後の最後で受胎し、分娩間隔500日とか600日となる牛も相対的に多くなり、牛群平均での分娩間隔も延伸する傾向となります。
さて、このように分娩間隔はシンプルで分かりやすい概念ですが、数字の解釈においてこのように留意すべき点があります。現場で農家指導に携わる方は、特に注意してください。