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現場に役立つ繁殖情報(その4)
-分娩後の初回授精日数について-

(一社)家畜改良事業団 情報分析センター首席専門役相原 光夫

今回は、分娩後の初回授精日数について考えてみたいと思います。これは分娩後、最初の授精を何日目で行ったかを確認するもので、受胎したかどうかは問いません。分娩間隔などの繁殖成績を改善しようとしたとき、妊娠期間は決まっているので、「分娩後何日で初回授精を行ったか」「初回授精後何日で受胎したか」のみに左右されます。とりわけ初回授精が最初から遅ければ、例え受胎率100%であっても繁殖成績は改善しません。初回授精は「繁殖改善の第一歩」として大変重要な情報です。

1.VMP※)

分娩後何日で受胎しているかを示すものが「空胎日数」です。図1は、北海道における空胎日数の分布です。平成28年度の空胎日数の平均値は154日ですが、最も多いケース(最頻値)は80日であると分かります。「空胎日数の平均値が154日ならば、どうせ受胎しないだろうから、分娩後100日を初回授精の目安にしている」という方がまれにいますが、これは誤りです。最も受胎しているのが80日なのですから、初回授精は80日以前であることが望ましいと分かります。

図1 北海道における受胎までの空胎日数

図1 北海道における受胎までの空胎日数

分娩後に意図的に授精を行わない期間を「VMP」と言います。VMPは酪農家各自の考え方で決定してよいのですが、一般には初産牛の場合は80日間、2産以上の場合は60日間といわれています。では、北海道の酪農家はVMPをどう設定しているのでしょうか。図2は、北海道における分娩後初回授精日数です。VMPは酪農家が決めることなので、一番多く授精が行われる最頻値が道内の現実のVMPであると推察できます。平成28年度では、奇しくも初産牛と2産以上の牛ともにVMPと推察できる最頻値は72日となっているようです。

図2 北海道における分娩後初回授精日数

図2 北海道における分娩後初回授精日数

ここで問題点が一つ浮かび上がります。酪農家が決めるVMPなのに初回授精がズルズルと遅れてしまい、平均値では初産牛87日、2産以上90日となってしまうのはなぜでしょうか。結論から言うと、これは分娩後の子宮の回復が良くなく、なかなか良い発情が来ないことが原因だと考えられます。酪農家がVMPを過ぎた牛に授精開始しようとしても、良い発情が来ないのでは授精できないわけです。
※)VMP(Voluntary任意 Waiting待機 Period期間)

2.検定成績

皆さんの検定成績を見てみましょう。図3の酪農家は、おそらくVMPは80日程度の遅い設定になっているようです。この図は、受胎・不受胎を問わずに授精報告の状況だけをまとめたものです。

図3 検定成績表での授精報告(成績表1枚目の右下部)

図3 検定成績表での授精報告(成績表1枚目の右下部)

<ポイント1>

「今月」とは検定月のことで、分娩後120日経過しても授精を行っていない牛が4頭いるということです。発情を見逃していると考えることもできますが、その見逃してしまう原因として微弱な発情、あるいは良い発情が来ていないことなどが主要因として挙げられます。4頭の牛の分娩後の子宮の回復も思わしくないと考えられます。

<ポイント2>

ポイント1は今月限りのことなので、良い発情を偶発的に見逃してしまったということも考えられます。しかし、ポイント2は過去1カ年の成績です。もはや偶発的とは考えづらく、分娩120日以上で20%、100日以上では41%(=21+20)もの牛において子宮の回復が思わしくなかったり、飼養管理などにも改善課題があると考えられます。

3.分娩後の子宮の回復

図3の酪農家のように、恒常的に初回授精が長期化している場合に考えられる飼養管理上の一般的な課題の代表例を挙げます。これら以外にも要因はありますので、なかなか改善しない場合は獣医師などに相談してみてください。

(1)低栄養

乾乳後期(クロースアップ期)は、乾乳期用の濃厚飼料を増給してルーメン内の絨毛を発育させます。ルーメン内の絨毛が整えば、分娩後の栄養補給がスムーズとなります。これが十分でないと、分娩後に栄養不足となりやすく、子宮の回復にも影響します。また、それだけでなく、ケトーシス、脂肪肝といった周産期病にもつながり、繁殖成績をますます悪化させることとなります。

(2)カルシウム不足

カルシウム不足では、起立不能となってしまう乳熱が有名です。これは、カルシウム不足によって筋肉が緩んでしまい、起立不能になる病気です。起立不能になるほどの重篤なカルシウム不足でなくとも、子宮も筋肉なので分娩後の子宮の収縮(回復)に影響します。乾乳期のカルシウムコントロールは極めて重要です。以前からいわれている方法では、乾乳期にはマメ科乾草は与えず、カルシウムを制限給与する方法があります。現在では、マグネシウム投与、イオンバランス(DCAD)やカルシウム制限そのものを再考するような方法がさまざま提唱されています。ご自身の経営に合ったコントロール方法を行ってください。

(3)後産停滞

これもカルシウム不足が原因となることの多い病気です。後産停滞が発生すると、前述のような子宮の収縮に影響があります。また、後産停滞は細菌感染などによる子宮内膜炎などの繁殖障害を起こしやすく、やはり繁殖成績を悪化させます。

(4)分娩事故

難産や死産といった分娩事故も繁殖障害の原因となります。ボディーコンディションで肥り過ぎに気を付けるとともに、分娩前に清潔で広い分娩房に移動させることで子宮捻転などを防ぐことができます。また、産子をけん引する場合も、タイミングが早過ぎると逆に難産になったり、さらに状態を悪化させてしまうことも知られています。

4.おわりに

繁殖改善というと、受胎率が真っ先に取り上げられる傾向があります。しかし、今回取り上げた酪農家の繁殖成績が長期化している要因の一つに「初回授精」があり、分娩後の子宮の回復が好ましくないことなどを推察できます。繁殖改善を進めるときに、こうした確認も行わないと、「本来は初回授精関連を改善しないといけないのに受胎率を追いかける」というピント外れを起こしてしまいます。検定成績をよく検討し、効率の良い繁殖改善を行っていただきたいと思います。

*授精報告の補足

本文中でも触れた検定成績表の授精報告について、図4の矢印で示した比率(ポイント3)について補足します。これは、現在活躍している経産牛のうち、分娩後の初回授精を行った頭数を経産牛頭数で割ったものです。この例では、82頭の経産牛のうち56頭が初回授精済みなので68%(=56÷82)です。注意点としては、経産牛の分娩後の初回授精を集計するので、授精回数などは無関係であることです。1回しか授精していなくても1頭、5回授精していても1頭は1頭、妊娠も乾乳も関係ありません。この値の目標値は80~85%程度です。高くても低くても好ましくありません。

図4 検定成績表での授精報告(成績表1枚目の右下部)

図4 検定成績表での授精報告(成績表1枚目の右下部)

(1)85%を超えているとき

→受胎率または発情発見率が低い
なかなか受胎しない牛の頭数が多いと、初回授精済みの頭数はどんどん多くなります。極端な例として、牛群が1頭も受胎しない事態となれば、全部の経産牛が初回授精済みとなり、授精報告比率は100%となってしまいます(図5)。

(2)80%未満のとき

→子宮の回復が遅い
分娩後の子宮の回復が遅いため、長期間に人工授精を行わない牛が増えてしまうと、初回授精済みの頭数はどんどん減っていきます。極端な例として、1頭も人工授精を行わなければ、授精報告比率は0%となってしまいます(図5)。

(3)80~85%のとき

分娩後60日程度で初回授精を行い、全頭がこの初回授精で受胎すると仮定すれば、理論上は82%程度となります。では、この範囲に収まれば安心か…というと違います。前述の受胎率、発情発見率、子宮の回復のどれもが好ましくない場合に、変な意味でバランスが取れて、この範囲に収まってしまうことがあります。本文中のポイント1やポイント2も併せて確認してください。

図5 どちらも分娩間隔が長期化してしまいます

図5 どちらも分娩間隔が長期化してしまいます