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現場に役立つ繁殖情報(その3)-牛群の産次構成について-

(一社)家畜改良事業団 情報分析センター首席専門役相原 光夫

今回は、牛群の産次構成について考えてみたいと思います。
産次構成は、産次別に頭数を把握するだけなので、検定成績としては基本中の基本と言って過言でないでしょう。指導業務担当者ならば、農家にわざわざ検定成績表を見せてもらわなくても把握できる人も多いと思います。また、牛群検定に未加入の農家であっても、簡単に把握することができます。ぜひ一度、確認してみてください。
今回は、産次構成と長命連産の関係についても併せて紹介したいと思います。

1.産次別頭数比率(産次構成)

牛群検定には数多くの繁殖成績がありますが、この「産次別頭数比率」は本来目的とずれて、誤解されてしまうことが多いものでもあります。
図1に、産次別頭数比率と産次平均値を示しました。この平均値がよく誤解されます。「最近の牛は短命だ。2.6産しか分娩せず、3産を待たずに死んでしまう」といったように、多くの農家は平均寿命と誤解しています。平均産次とは、農家の牛舎において現役で働いている牛の平均産次です。寿命的な要素はありませんので、ご注意ください。会社に例えれば、社員の平均年齢が46歳だったとして、47歳前に退職するわけではありません。これと同じことです。

図1 平成28年繋養牛の産次別頭数比率

図1 平成28年繋養牛の産次別頭数比率

この産次別頭数比率の表からは、初産牛が全体の31%程度であること、1~3産までの牛が全体の76%を占めており、生産の主力となっていること-などが分かります。

2.検定成績表

この産次別頭数比率からは、前述のほかにも極めて重要な情報を得ることができます。
ここからは、実際の現場で利用しやすいように、平成29年8月の北海道平均である図2を使って説明します。産次構成比率は、図1の平成28年の集計とほとんど変わりません。折れ線グラフを棒グラフに直しただけという程度です。

図2 平成29年8月北海道における分娩間隔と産次別頭数比率

図2 平成29年8月北海道における分娩間隔と産次別頭数比率

さて、通年的に分娩状況を見ると、毎月同じぐらいの頭数の初妊牛が分娩し、初産牛になり、そして同じぐらいの頭数が初産から2産になっていきます。従って、多少の変化はあるものの、産次構成は毎月同じような構成になります。すると、初産牛と2産牛の比率の差である▲4%とは何でしょうか。これは、結果として初産から2産に進めなかった牛ということになります。理由はいろいろ考えられます。
繁殖障害、周産期病、事故、低能力などが挙げられますが、いずれにせよ、結果として受胎できずに淘汰されたということを示唆するものです。2産から3産の▲9%、3産から4産の▲6%…、いずれも同様です。
そして初産から2産、3産と進むことができた牛の分娩間隔の平均は426日となっています。分娩間隔は当たり前ですが、分娩と分娩の間隔なので、2産以上の牛しか成績を持ち得ません。

3.繁殖に課題のある農家(A農家)

皆さんは、図3のA農家の繁殖成績についてどう思われますか。分娩間隔は401日ですから、北海道平均と比較しても相当に良いということになります…。果たしてそうでしょうか。

図3 A農家(課題あり)における分娩間隔と産次別頭数比率

図3 A農家(課題あり)における分娩間隔と産次別頭数比率

産次構成を見てみましょう。もし、規模拡大などで初妊牛を大量に導入したなどの事情もなく、常に初産牛が49%にもなる成績であれば、繁殖成績には大きな課題があることになります。前述のとおり、初産牛から2産牛に進めなかった結果が▲23%だということは、初産牛の約半分もの牛が、繁殖障害や周産期病、事故、低能力などで、受胎できずに淘汰されたことになるからです。繁殖管理に大きな問題があるのは明白です。
それでは逆になぜ、分娩間隔は401日などという素晴らしい成績を表示するのでしょうか。もう、パラドックス(ウソのような話で頭が混乱する)ですね。
賢明な皆さんならばもうお分かりだと思いますが、分娩間隔は「分娩と分娩の間隔である」という点にあります。A農家では、数少ない受胎した牛の分娩間隔がたまたま良かったということだけです。初産~2産牛でいえば、初産牛の半分程度の受胎した頭数だけで計算したものです。分娩間隔が401日であっても、決して良好などとほめてはいけない事例になります。種が付かないは次の泌乳期に進むことができないので、このような産次構成になるわけです。
図1で示した初産牛の北海道平均値「約31%」だけでも記憶しておいてください。牛群検定に参加している農家はもちろん、牛群検定に参加していない農家でも、初産牛の頭数を数えれば、おおまかな繁殖成績を知ることができます。

4.繁殖が良好な農家(B農家)

図4のB農家の分娩間隔は406日です。良好であることに違いはありませんが、先のA農家の401日と比較すると、わずか5日ですが長期化しています。B農家はA農家より繁殖成績が劣るのでしょうか…。もうお分かりだと思いますが、B農家の産次構成は、産次が進んでも漸減する程度であまり下がりません。これは、ほとんどの牛たちがきちんと受胎し、2産、3産と産次を進めていることを意味します。すると、たまたま受胎した牛だけで記録したA農家の分娩間隔より、B農家の分娩間隔が「価値の高い406日」であるとご理解いただけると思います。

図4 B農家(優良)における分娩間隔と産次別頭数比率

図4 B農家(優良)における分娩間隔と産次別頭数比率

5.平均産次

ここで、平均産次について考えてみたいと思います。長命連産とは「長生きして分娩を重ねる」と言う意味で、酪農家なら誰もが目標にしていることです。A農家とB農家の成績を比較すれば、平均産次が高い2.8産を示すB農家の方が長命連産であると言えます。
長命連産というと、長生きする牛、高産次の牛というイメージがあります。これは、特に間違いではないのですが、A農家とB農家の産次構成「5産以上」を比較すると、その差はわずか4ポイント、頭数では2頭しか違いません。B農家がA農家より平均産次が高い理由は、5産以上の区分にあるのではなく、むしろ1産、2産、3産といった牛を淘汰することなく、着実に受胎させ、大事に飼養管理しているところにあります。
これも当たり前の話ですが、長命連産を達成するのは、何頭かの長生き牛をつくるのではなく、1産、2産、3産といった若い牛の産次を着実に重ねることにあります。若い牛を大切にすることで、高産次牛が生まれるのです。

6.産次構成を「人口ピラミッド」に例えると

今回は、産次構成などの活用について紹介しました。この産次構成の棒グラフを、図5のように90度回して立てたとします。さらに、産次を年齢に換え、牛を人間に換え、牛群を国家に置き換え、左右を男と女に分けると「人口ピラミッド」(図6)が出来上がります。

図5 頭の体操自分の成績表を想像しよう

図5 頭の体操自分の成績表を想像しよう

図6 人口ピラミッド イメ-ジ

図6 人口ピラミッド イメ-ジ

A牧場のような形を「ピラミッド型」、B牧場のような形を「釣り鐘型」と言います。ピラミッド型は、新生子死亡が高かったり、飢餓や貧困がひどく、医療も整わずに若くして死亡する人が多い国のタイプといわれています。釣り鐘型は、経済や医療も良く、若い人はほとんど死ぬことがないような長命で幸福な国のタイプといわれています。釣り鐘型であるB牧場は「幸福な国」なのです。
また、初妊牛が高騰していますが、どちらの国のタイプが高価な初妊牛をたくさん必要とするか…。もうお分かりだと思います。皆さんの牛群も、ぜひとも幸福な国を目指していただきたいと思います。
ちなみに、日本は出生数が減ってきているので、釣り鐘型の下部が狭まった「ツボ型」と言われています。