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繁殖改善に向けて!

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牛群検定から見る
現場に役立つ繁殖情報(その2)-分娩管理について-

(一社)家畜改良事業団 情報分析センター首席専門役相原 光夫

「繁殖改善」というと、分娩間隔の短縮、受胎率の向上などを取り上げることが多いようですが、今回は難産や死産などについて考えてみたいと思います。
繁殖とは授精に始まり、元気な子牛を取り上げるまでをいいます。極端にいえば、受胎率が抜群であっても死産などが多ければ、結局のところ後継牛を確保できず、高価な初妊牛を購入することになってしまいます。また、難産や死産となってしまった母牛は、母体へのダメージも大きく、飼料の食い込みが悪くなります。このことから、乳量が伸びず、種も付かないケースが多く、早期に淘汰されてしまうことが知られています。
加えて、性選別精液や追い移植といった新しい繁殖技術についても併せて紹介します。

1.今回の解説について

最初に、今回の解説の活用法を記しておきます。今回の解説は、平成28年牛群検定の分娩管理関係の繁殖成績の北海道(対比の意味で都府県)の統計情報を紹介します。農家や指導関係の皆さんは、「北海道内の平均ではこうなっているのか」で終わらないでください。検定成績表には、死産や難産などの情報が掲載されていますので、例えば「北海道平均と比較して、わが牧場の死産比率は高い」「わが家の分娩管理には何か問題がある」というように役立てていただきたいと思います。

2.分娩状況

(1)性比

表1に、分娩状況を示しました。まず、気になるのは雄雌の性比と思います。ご存じのように本来の性比は雄がやや高く52%程度、雌がやや低く48%程度となります。しかし、牛群検定では図1に示した通り、近年では性選別精液の活用が進み、性比は雄雌逆転しています。これまでは都府県が先行していましたが、平成28年においては北海道と都府県にほとんど差は見られません。

表1 平成28年牛群検定 分娩概況

表1 平成28年牛群検定 分娩概況

図1 産子性別の比率の推移(双子以上、死産を除く)

図1 産子性別の比率の推移(双子以上、死産を除く)

性選別精液の活用では、受胎率が課題となることが多いようです。しかし、前回の解説で示したように、北海道内の分娩間隔などは緩やかですが改善傾向となっていますので、性選別精液の活用が農家全体の繁殖成績を悪化させるという事態には至っていないようです。皆さんも検定成績表で確認してみてください。

(2)双子

近年、繁殖改善の一環として「追い移植」が行われるようになりました。追い移植という技術は、単純に授精と受精卵でチャンスが2倍というだけでなく、胚から分泌されるインターフェロンτ(タウ)の効果により受胎率の向上をも期待できるとされています。しかし、授精後に行う受精卵移植ですから、双子となってしまうリスクが高まるともいわれています。
図2に示した通り、双子の比率は現在まで、ほとんど変わっていません。むしろ緩やかな減少傾向が見られます。追い移植の実施報告は、牛群検定における検定項目となっていないので、実施総数の件数は不明ですが、少なくとも統計的に双子の生産数に影響は与えていないようです。追い移植に取り組んでいる方は、通例でも2.61%程度の多胎があることを前提にしてください。
また、双子の中でもフリーマーチンが疑われる雄雌双子についても、双子の割合の変化と同様の変化となっています。

図2 北海道 分娩年別双子比率の推移

図2 北海道 分娩年別双子比率の推移

(3)死産と難産

死産は、北海道と都府県で比較すると北海道に多い傾向があります。表2に示したように、とりわけ初産牛に多いのが特徴です。これは北海道の冬が寒いことに加え、表3に示したように北海道では多頭化が進んでいることもあり、自然分娩させることが要因です。
すなわち、冬の寒い日の朝に牛舎を見回った際、母牛の傍らで子牛が死んで見つかったときに、死産報告となっていると考えられます。可能性としては、出産直後に死亡したことも考えられますが、見分けはつきません。

表2 平成28年牛群検定 各産次に占める死産の頭数割合

表2 平成28年牛群検定 各産次に占める死産の頭数割合

表3 平成28年牛群検定 難産の発生状況

表3 平成28年牛群検定 難産の発生状況

難産については、牛群検定では自己申告的な報告になるので、厳密な値ではありません。北海道は自然分娩による安産も多い代わりに、わずかに難産比率が高い傾向にあるようです。産次別に見ると、北海道では初産牛の難産が目立ちます。初産牛は体も小さく、難産となりやすいといわれています。ただし、先に紹介した性選別精液、肉用種交配が行われるようになり、近年において難産は減少傾向にあります。特に、未経産牛は遺伝的改良が最も進んだ集団ですので、性選別精液を積極的に取り入れることは改良の意味でも推奨されます。
検定成績表で死産と難産の数を数えて、それぞれ5%を超えるようでしたら、分娩管理を見直す必要があります。検定成績表を使って分娩予定日をきちんと把握し、適切な乾乳日数を取っているかどうか、特につなぎ飼い牛舎の場合、分娩房を準備しているか、清潔な敷きわらをたっぷりと入れているか―などをチェックしてください。牛の場合、双角子宮の片側で妊娠するので、子宮のバランスが悪く、捻転を起こしやすい動物です。分娩前に起居の動作を頻繁に行うことが、捻転を防止するといわれています。滑りづらい、十分なスペースの分娩房が必要です。

3.分娩管理の乳検活用を

今回は、分娩管理について解説しました。今回紹介した繁殖技術以外にも、分娩監視などのいろいろな器具や飼養管理方法が提案されています。また、新生子牛の管理についても初乳の給与や保温など枚挙に暇がありません。
牛群検定はデータ管理なので、こういった新技術のように直接的に分娩管理できるものではありません。しかし、今回紹介したようなデータから、分娩管理に問題がないか否かを見ることができます。ぜひとも、牛群検定データを分娩管理の改善にお役立てください。

4.早産と流産

分娩管理として、ここまで挙げた情報のほかに、表4の早産と流産の情報があります。

表4 平成28年牛群検定 早産と流産の状況

表4 平成28年牛群検定 早産と流産の状況

しかし、この情報を活用するには注意点があります。牛群検定では、泌乳能力の検定を優先させるため、早産と流産の扱いが、獣医学的なものとは異なります。牛群検定では妊娠期間180日未満の場合を流産、180~270日目までを早産としています。ただし、妊娠期間180日未満の場合であっても、未経産牛が泌乳開始した場合は分娩(早産)として扱います。
牛群検定では分娩の産次により乳量を管理します。流産は産次として数えませんので、泌乳能力の検定として、分娩か流産かの区別は重要です。妊娠期間180日を超えると乳量の増加が認められるため、新たな分娩産次の乳期として計算することとなっています。データを活用するに当たっては注意してください。
さて、早産については、死産となることも多いことから、傾向としては死産と同様で、北海道がやや高い傾向となります。早産、流産、死産の牛群検定での統計値を示しましたが、これらは、ウイルス性の病気が原因となることもあります。もし、今回示した値より早産、流産、死産が目立って多い場合は、獣医師への相談も欠かさないようにしていただきたいと思います。