良質乳生産に向けた乳房炎コントロール
No4 乳房炎のモニタリングと意義
乳房炎をコントロールするためには、適切なモニタリングとその意義を理解することが重要です。連載最後の本稿では、それらについて整理していきます。皆さんの農場でも乳房炎モニタリングは実施されていると思いますが、改めてその意義について振り返ってみてみましょう。
1.乳房炎をみつける
乳房炎は、注意深く牛を観察すること(目視検査)で特徴的な臨床症状(乳房の腫脹、硬結、熱感、発赤など)を見つけることができます。また、乳房炎の検査には、生産者が牛舎内で出来る方法と検査機関などの実験室内で行う方法があります。いずれの方法も、どの乳房が乳房炎なのか早期に発見する事が重要です。日常的な乳房炎モニタリングに役立つ方法として、生産者が牛舎で行うことのできる臨床検査、理化学的性状検査と、検査機関などが実施する細菌学的検査について、紹介します。
〇臨床検査:ストリップカップ法
ストリップカップ(写真1)を用いて、搾乳時の前搾り乳を毎回確認することにより、乳房炎の臨床症状の一つである「ブツ(凝集塊)」を見つける方法。
写真1:ストリップカップ
〇理化学的性状検査:CMT(California Mastitis Test)変法
PLテスター(写真2)と乳汁を等量混和することによって、混合した液の粘稠性や色調の変化を見て判定する方法。粘稠性が高ければ、乳汁中の体細胞数が多いことを示しており、色調が黄から緑に変化すれば、pHの高い乳房炎乳汁であることが疑われます(写真3)。牛舎内で生産者が乳房炎の判定を短時間で実施できます。
写真2:PLテスター
写真3:PLテスターと体細胞数との関係
〇細菌学的検査:培地法、簡易培地法
検査用の培地に乳汁を塗って細菌の種類を特定する方法(写真4・写真5)。乳房炎の原因菌が分かると、その農場における問題点(伝染性細菌であるのか?環境性細菌であるのか?など)の所在が明らかとなり、効果的な乳質改善の取り組みを行うことができます。
写真4:血液寒天培地に生えた乳房炎原因菌
写真5:簡易培地(ペトリフィルム)に生えた乳房炎原因菌
2.個体乳検査とバルク乳検査
●個体乳検査
牛1頭ごとに「4分房の合乳」あるいは「各分房乳」の検査を行うことで、「乳房炎の臨床症状がある場合」、「CMT変法で異常がみられる場合」、「バルク乳検査で伝染性細菌等が検出された場合」、「乳房炎治療の効果を知りたい場合」、「牛群検定で体細胞数が高い場合」などで実施されます。
●バルク乳検査
バルク乳検査は、定期的に継続して実施することによって、搾乳衛生や洗浄システム、牛群の乳房炎リスクを客観的に評価することができます。この検査によって、乳汁中の体細胞数が低い場合や臨床症状がない場合でも、早期に伝染性細菌を発見し感染拡大を防止する対策をとれることや、環境性細菌が基準値以上検出された場合は、搾乳衛生管理上の問題点(牛床管理、乳頭清拭など)を知ることができるメリットがあります。これらについて、以下の項目で具体的に説明します。
3.バルク乳のモニタリング検査
バルク乳検査で乳汁中の細菌検査を行うと、牛群内に潜む乳房炎の原因を特定するだけでなく、搾乳衛生や搾乳機器の管理状況などを評価し、トラブルを改善するための有効な手がかりとなります。バルク乳中の全ての細菌は、乳房、環境または搾乳機器のいずれかに由来しています。バルク乳のモニタリング検査は、乳質改善と乳房炎予防のために非常に有効です。
●検査項目
検査項目は検査機関により異なりますが、総生菌数、耐熱性細菌数、伝染性細菌、環境性細菌などが挙げられます。バルク乳のモニタリング検査は、乳質と乳房炎原因菌の2つのモニタリングの意味を持ちます。
(1)乳質モニタリング
〇総生菌数
バルク乳1ml当たりの細菌数で、乳房、環境および搾乳機器の汚染菌の全てが含まれ、農場の搾乳衛生の指標となります。
〇耐熱性細菌数
バルク乳を低温殺菌(63℃、30分間など)した後に培養して検出された菌数であり、通常の低温殺菌でも生存可能な菌数を表しています。搾乳洗浄システムの指標となります。洗浄水の温度や洗剤濃度が不適の場合、ゴム製品等の消耗品の劣化や搾乳機器の汚れが落ちていない場合など、搾乳機器の洗浄が不十分なときに検出されます。
(2)乳房炎原因菌モニタリング(表)
〇伝染性細菌
搾乳時に人の手やミルカ―を介して、分房から分房へ感染して乳房炎を広げる細菌。例)黄色ブドウ球菌、無乳性レンサ菌、マイコプラズマ属など。
〇環境性細菌
牛舎やパドックなど牛が生活する環境に存在し、搾乳と搾乳の間に牛の乳房や乳頭を汚染することで乳房炎を発症させる細菌。例)表皮ブドウ球菌、環境性レンサ球菌、大腸菌群など。
●サンプリング
バルク乳を用いて乳房炎モニタリングを行うためには、適切な乳汁サンプリングが求められます。乳汁中に潜む乳房炎原因菌は、乳汁サンプルの取り扱い方次第では増減することがあります。そのため、以下のようにサンプルを採取することが望ましいとされています。
①搾乳終了後1~2時間以内に、バルク乳サンプルを採取する。
②バルク乳サンプルの採取前に、約10分程度バルクタンク内の生乳を攪拌する。
③攪拌後、タンク上層部の生乳を10ml程度採取する。
④バルク乳サンプルは採取後、速やかに冷蔵あるいは冷凍する。
●モニタリング間隔
日々、農場の搾乳状況や牛の状態は変化しているため、1回だけのバルク乳検査では、牛群の乳質や乳房炎問題を理解することはできません。そのため、できるだけモニタリング間隔を短くすることが理想的と考えられますが、検査には費用も必要ですので、少なくとも月に一度のバルク乳検査を行い、継続することが望ましいと考えられます。
表 乳房炎の主な原因菌の特徴
4.まとめ
乳房炎から牛たちを守るためには、牛群の中にどの乳房炎原因菌がどの程度潜んでいるのか定期的に把握しておくことが重要です。その状況を知ることが、前の月より搾乳衛生の改善に取り組むことや、牛床を清潔に保つことを心掛ける気持ちに繋がります。乳房炎はどの牛でも起こりうることですので、牛群全体を理解するためにバルク乳を用いた定期的なモニタリングを行うことが、乳房炎コントロールの第一歩になると言えるでしょう。