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酪農の担い手問題

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根室管内標津町 地域あげての新規就農対策がスタート

根室管内標津町で平成26年度から、行政や関係機関が一体となった新規就農対策が始まった。手厚い資金援助など万全のサポート体制が特長だ。夫婦1組が酪農研修を受けている最中で、離農予定の牧場を来年10月に継承する予定だ。

標津町農協

標津町農協

標津町は日本最大の酪農専業地帯、根室管内北部に位置する人口5400人の町。標津町農協(今井和善組合長、酪農生産者136戸)によると、平成26年度の出荷乳量は9万7162トンと、全道9位の生産量を誇る。
ただ、道内の他の市町村同様、高齢化や後継者不足などに伴う生産者戸数の減少は避けられず、離農跡地の発生が重大な問題となっている。

こうした状況に対応するため、町と農協、農業改良普及センター、農業共済組合で構成する標津町農業担い手育成総合支援協議会は、平成26年6月に開かれた総会で、新規就農対策に一体となって取り組むことを決めた。

地域のベテラン農業者の協力による農業研修のほか、座学や視察などを始めとした2年間の基礎研修、就農希望者に対する資金援助など手厚いサポート体制を構築しており、今年1月から夫婦1組が新規就農を目指して研修をスタートさせた。
標津町農協は「酪農生産者が離農しても、タイミングが合わなければ新規就農者を迎え入れることはできない。こうした問題を解決するには、就農希望者を研修員として地域で受け入れるシステムが必要」と説明している。

指導農業士が実技研修

標津町で新規就農を目指す就農研修員となるには、複数の要件を満たさなければならない。

就農研修員の必要要件

  • 就農研修員としての適格性と、農業経営者となる強い意欲を有している
  • 研修後、町内で5年以上就農する
  • 研修期間中および就農時、標津町に住所を有する
  • 研修時の年齢が概ね40歳未満である
  • 就農時、農業に従事可能な配偶者を有している(または有する見込み)

第一に農業経営者となる強い意志を持っていることが求められる。酪農は1年間365日、休みなく乳牛の面倒をみなくてはいけないなど、農業未経験者が一般的に想像する牧歌的なイメージとは裏腹に、仕事内容がハードなためだ。

地域に次代の担い手を迎え入れるという観点から、研修時の年齢が概ね40歳未満であることも必要要件の一つとなっている。一人で酪農を営むのは困難なため、農業に従事することが可能な配偶者を有している(または有すると見込まれる)ことも要件に盛り込まれている。
就農研修員は、就農トレーナーの下で1~2年間の実技研修を行う。研修期間は研修員の能力や就農時期などに応じて前後し、この間に営農に必要不可欠な実践的な技術を習得する。

就農トレーナーは、牧場を研修員に経営移譲する農家や、北海道から認定された町内の指導農業士(担い手の育成に強い熱意と指導性があり、地域のリーダーとして活躍が期待される農業者)7戸が務める。
研修期間中は複数のトレーナーの下で酪農を学ぶこととなっており、研修員は多様な経営スタイルの体験を通し、自らの目指す方向性を探ることが可能だ。
トレーナーが行う実技研修とは別に、研修員は2年間の酪農専門基礎研修(しべつデイリースクール)を受講することも決まっている。標津町農協が農業改良普及センターや根釧農業試験場を始めとした関係機関の協力を得て開催しているもので、飼養管理についての座学やTMRセンターの視察などを行う。デイリースクールには研修員だけでなく一般の若手酪農生産者も参加しているため、地域との交流を深める貴重な機会にもなっている。

手厚い資金援助で負担軽減

標津町では担い手の確保に向けて、手厚い資金援助を行っている。

標津町の資金援助の内容

研修期間中

  • 住宅料の2分の1を助成(1万5,000円/月限度)
  • 傷害共済掛け金を助成(2万円限度)
  • 就農トレーナーに研修育成や指導管理にかかる費用として月15万円助成

新規就農後

  • 経営施設周辺の環境整備や農業用施設改修、農業用機械、乳牛の導入などに年間500万円支援(3年間で最大1,500万円)
  • 酪農ヘルパー利用料を年間20日間を限度に全額助成(3年間まで)
  • 営農にかかる固定資産税を3年間全額助成

酪農は初期費用が1億円を超えることが珍しくなく、農業の中でも特に投資額が大きい。このため、就農希望者の負担を少しでも減らし、新規参入のハードルを下げることがねらいだ。予算は町と農協が半額ずつ負担し、実際の支払いは標津町農業担い手育成総合支援協議会が行う形となっている。
研修期間中は、就農研修員の住宅料の2分の1(上限1万5000円/月)を助成するほか、傷害共済掛け金(上限2万円)への支援も行う。研修員の研修育成や指導管理にかかる費用として就農トレーナーに月15万円を援助するなど、研修員とトレーナー双方の金銭的負担を可能な限り軽減している。

研修員の新規就農後のサポートにも余念がない。施設の改修や環境整備、農業用機械の導入などの用途に年間500万円(就農から3年間まで最大1500万円)を支援するほか、営農にかかる固定資産税を3年間全額補助する。また、新規就農者が研修や里帰りなどを目的に酪農ヘルパーを利用する場合、年間20日間を限度(3年間まで)に料金すべてを助成する。

標津町がこうした手厚い資金援助に取り組むことができるのは、担い手確保が地域の維持・活性化につながるとの理解を住民や農協組合員から得ているためだ。
標津町農協は「新規就農者の円滑な経営をサポートするには、資金面での援助が必要不可欠。一方で、既存の農業者の理解を得られるよう十分な説明を行うことも大事だ。トレーナーをお願いしている生産者は、労働力目的ではなく地域の担い手を育てるという意識で、研修員を受け入れてくれている」と話している。

来年10月に夫婦1組が新規就農

標津町の就農研修員は、現在1組。今年1月から実技研修をスタートした鹿能圭介さん(33歳)、真理さん(26歳)夫妻だ。来年10月の新規就農を目指し、日々の研修に全力を挙げている。

鹿能圭介さん・真理さん

鹿能圭介さん・真理さん

鹿能夫妻が現在研修中の牧場

鹿能夫妻が現在研修中の牧場

圭介さんの実家は、釧路管内厚岸町の酪農生産者。しかし、弟が後を継ぐことを決めたため、別の牧場の従業員や酪農ヘルパーなどを経て、標津町で新規就農する道を選んだ。
圭介さんは「標津町は新規就農者に対する支援体制が手厚い。実技研修でいろいろな酪農経営をみることができるため、勉強にもなる。地域も協力的で、会合などに出席するたびに積極的に声をかけてくれる。おかげで地域にうまく溶け込むことができた」と町の取り組みを高く評価する。

圭介さんと真理さんは最初の牧場での研修を3月に終え、4月以降、経営を継承する予定の酪農生産者の下で飼養管理の技術を研鑽している。

圭介さんは将来の目標について「現在はフリーストール牛舎で乳牛90頭を搾乳している。無理に規模拡大するつもりはないが、搾乳頭数を100~120頭程度まで増やし、年間出荷乳量850トンを目指したい」と意気込む。心強い担い手の誕生に地域の期待が高まっている。