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酪農の担い手問題

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釧路管内標茶町 農協出資のメガファームで担い手育成

釧路管内標茶町で昨年4月に稼働した「TACSしべちゃ」は、農協出資型のメガファーム。就農希望者の研修機能を併せ持ち、今後の担い手確保につながると期待されている。道内で農協が出資する大型牧場の設立が相次ぐ中、TACSしべちゃの取り組みは先進事例として注目を集めそうだ。

釧路管内中央部に位置する標茶町は、広大な土地と冷涼な気候に恵まれ、酪農を基幹産業として発展してきた町だ。標茶町農協(髙取剛組合長)によると、町内の3657世帯(人口約8000人)に占める酪農生産者の割合は7%(249戸)で、平成27年度の出荷乳量は約15万3000トン。全道2位の生産量を誇る道内有数の酪農専業地帯だ。
ただ、高齢化や担い手不足などが問題となり、生乳生産量は平成21年度以降、右肩下がりで減少。酪農生産者の規模拡大や新規就農者の確保が思うように進まず、生産基盤の拡大が重要課題として浮上していた。
そこで、農協や町は地域の生乳生産を牽引しようと、自らの出資でメガファームを新たに立ち上げることを決定。酪農生産者の減少に歯止めをかけるため、牧場には就農希望者を対象とした研修機能も設けることにした。
新設された牧場の名称は「TACSしべちゃ」。平成27年4月の稼働から丸1年を迎えたばかりだが、初年度の出荷乳量は約1900トンと計画以上のペースで生産を伸ばしている。来年4月には研修生の夫婦1組が町内の牧場を経営継承する予定で、酪農基盤の強化につながることが期待されている。

研修生の宿泊施設を併設

TACSしべちゃの立ち上げは平成25年11月。設立には標茶町農協と町のほか、雪印種苗も携わった。資本金は9500万円で、出資割合は標茶町農協が51.0%、雪印種苗が38.95%、標茶町が9.95%。代表は、髙取剛標茶町農協組合長が務める。
牧場の概要は〈表:TACSしべちゃの概要〉の通り。飼料面積は200ヘクタール(牧草160ヘクタール、デントコーン40ヘクタール)で、雪印種苗が培ってきた飼料生産のノウハウを生かし、草地基盤に立脚した低コスト型酪農の経営モデル構築を目指している。

TACSしべちゃの概要

社名
株式会社TACSしべちゃ
社名由来
Town(標茶町)
Agricultural Cooperative(標茶町農協)
Snow Brand Seed(雪印種苗)
代表取締役社長
髙取剛(標茶町農協組合長)
資本金
9500万円
出資割合
標茶町農協51.0%、
雪印種苗38.95%、
標茶町役場9.95%
牛舎
フリーストール牛舎
(成牛300頭、育成牛180頭)、哺育舎(30頭)
設備
パラレルパーラー18頭W、スラリータンク、バンカーサイロ
飼料面積
200ha(草地160ha、デントコーン40ha)
目標年間出荷乳量
2400トン
総事業費
約9億5000万円
(強い農業作り交付金などで約2億6000万円補助)
事業開始
平成25年11月登記、平成27年4月搾乳開始

しべちゃ農楽校

しべちゃ農楽校

町は牧場の向かいに、就農希望者向けの宿泊研修施設「しべちゃ農楽校」も開設した。
TACSしべちゃの平成27年4月からの搾乳開始に合わせ、廃校となった小学校を活用して立ち上げたものだ。総事業費は約5000万円で、国の農山漁村活性化プロジェクト支援交付金を活用し、2000万円の補助を受けた。

しべちゃ農楽校の概要

施設
夫婦用家屋3戸
女性研修生用居室3室
短期研修生用居室2室(うち1室は2人用)
ミーティングルーム
料金(税込)
夫婦用家屋=月額2万円
女性研修生用居室=月額1万5000円
短期研修生用居室=1泊2日3500円(食事込み)
2泊目以降は1日当たり1200円
その他
1日3食750円で賄いを利用可能
総事業費
約5000万円
(農山漁村活性化プロジェクト支援交付金で2000万円補助)

同校は最大で夫婦3組、単身女性3人、短期研修生3人まで受け入れることが可能で、要件はおおむね40歳以下であること。現状では、単身男性の受け入れは行っていない。
町が同校を設立したのは、就農希望者が安心して研修に専念できる体制を整えるのが目的だ。地域では以前から、関係団体が一体となって担い手の確保に向けて取り組んでいたが、平成20~24年の5年間、町内では新規就農が1人もいない状況が続いていた。

女性研修生用の居室

女性研修生用の居室

町役場は「研修牧場などを設置した地域に比べ、標茶町に就農希望者を呼び込むことが難しくなった。従来よりも充実した受け入れ体制を整備することが必要と判断し、TACSしべちゃの稼働に合わせて宿泊研修施設を開設することにした」(農林課)と説明する。
現在、しべちゃ農楽校で受け入れている研修生は夫婦2組と女性1人。研修生らは町内での就農を目指し、TACSしべちゃで実践的な技術・知識の習得に励んでいる。

ベテランスタッフの下で研修

TACSしべちゃの研修生は、酪農に精通したベテランスタッフ4人から、搾乳作業や飼料給与、除糞を始めとした基本的な飼養管理を学ぶ。季節に応じて、牧草・デントコーンの収穫や飼料畑の耕起、肥料・堆肥散布、播種などの実習も行う。
就農希望者の研修期間は、原則2年間。最初の1年間はTACSしべちゃで学ぶが、その後は自らの就農形態を見据え、町内の指導農業士(担い手の育成に強い熱意と指導性があり、地域のリーダーとして活躍が期待される農業者)の下でさらなる研修を積む。TACSしべちゃはフリーストール牛舎しかないため、繋ぎ飼いでの就農を希望する場合など、将来に備えて多様な経営スタイルを学ぶ必要があるからだ。

TACSしべちゃのフリーストール牛舎

TACSしべちゃのフリーストール牛舎

研修生は、2年間で計40回の座学研修も受ける。町や農協、農業改良普及センター、NOSAIの職員などが講師を務め、乳牛の疾病や草地管理、乳製品の加工など、多岐にわたる専門的知識を習得する。
町役場は「研修生は基本的に2年間のサイクルで受け入れる。ただ、酪農経験がある場合など、能力などに応じて研修期間は前後する。すでに1組の夫婦がTACSしべちゃでの研修を終えている。

この2人は4月から町内の酪農生産者の下へと移り、来年4月に研修先の牧場を経営継承する予定だ」(農林課)と話している。

手厚い支援体制を構築

地域では、就農希望者が安心して研修を受けることができるよう、さまざまな対策を講じている。研修生を受け入れる牧場には、①1人当たり月額15万円以上の給与を支給、②労災保険加入などの福利厚生、③休日は4週6休(農繁期は調整あり)―などの条件を推奨している。
また、新規就農者には、就農一時金として町と農協が計200万円支給するほか、農場リース事業の利用や経営継承型就農への助成を行うなど、手厚い支援体制を構築している。

標茶町・農協の主要な支援内容

1.研修に対する支援

2.就農に対する助成

3.経営安定に対する助成

研修生を精神面からサポートするため、しべちゃ農楽校には常勤の就農コーディネーターも配置している。悩みがあった場合に相談に応じるなど、いわば研修生の「父親」としての役割を務めるとともに、就農希望者の確保に向けた情報収集や問い合わせへの応対など、さまざまな実務を担っている。
町役場は「就農コーディネーターが常駐していることは非常に大きい。問い合わせがあった場合でも迅速な対応が可能だ。また、常に研修生に目をかけてくれているから、安心感がある。研修生をいかにして確保していくかなど課題はあるが、今のところは上々のスタートを切ったと言える」(農林課)と明るい表情だ。