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「土・草・牛」を考える

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No1「酪農家のための土づくり講座」
良い土の条件-酪農の基本は土づくり-

酪農学園大学名誉教授松中照夫

今回から「酪農家のための土づくり講座」として4回にわたる連載を始めます。まずは、良い土とはどんな土なのかを考えます。

町村敬貴の神髄―「土づくり、草づくり、牛づくり」

酪農の神様と慕われた町村敬貴(ひろたか)が北海道で拓いた土地は、排水不良の湿地に植物遺体が積み重なる土地、すなわち泥炭地でした。彼は泥炭からできた土(図1)ではなく、「本物の土」を求めました。泥炭地には、排水不良や土の酸性という作物の生育を阻害する要因があったからです。

図1 泥炭土(画像提供:橋本均氏)

図1 泥炭土(画像提供:橋本均氏)

町村はそれを克服するため、土地改良を継続しました。その努力が実り、栽培不可能とされていた牧草の女王アルファルファ(図2)の栽培を可能にしました。そして、この高栄養牧草から高泌乳を実現できる乳牛改良に心がけたのです。彼が語った「土づくり、草づくり、牛づくり」は、彼が目指した土地に根ざす酪農のあるべき道筋を明確に示しています。

図1 泥炭土(画像提供:橋本均氏)

図2 牧草の女王アルファルファ
(画像提供:雪印種苗)

どんな土をつくりたいのか

皆さんも自分の農場の草地やトウモロコシ畑などで土づくりを実践したいと思われていることでしょう。「高品質多収には土づくり」のような掛け声もよく聴きます。では、その土づくりでどんな土をつくりあげたいのでしょうか。
また、私たちはあの畑の土は良いが、こちらの草地の土は悪いといった判断をします。この時、何によってその判断を下しているのでしょう。これには暗黙の前提条件があるのです。それは、牧草やトウモロコシなど作物を生産することに対して良いか悪いかという前提です。言い換えると、土づくりとは作物生産にとって良い土をつくることなのです。

堆肥を与え、ミミズがいれば良い土なのか

そこで、作物を生産するために良い土とはどんな土ですかと問われたら、皆さんはどう答えるでしょうか。
ある人は、堆肥がたっぷり与えられた土が良い土だと言います。また、ミミズがたくさん住む土だと考える人もいます。しかし、堆肥をたっぷり与えるといっても、必要以上に多量に与えると、土が養分過剰になって作物生育に悪影響を与えます。「たっぷり」とはどのぐらいの量なのか、それをはっきりさせなければなりません。
ミミズがたくさん住む土が良い土だといっても、一体どれぐらい住めば良い土といえるのかが分かりません。もともと、ミミズは自身が住みやすい土に住むのであって、ミミズがいるかどうかよりも、ミミズが住みやすい土をつくる方が大切だと思います。
土の微生物の働きに着目した土づくりをしたいという人もいます。しかし、微生物の働きは土が持つ性質に大きく影響されるので、結局は土の性質をどのようにしたいのかが問われます。
土づくりには、ここで例示したように、堆肥やミミズ、微生物といった話がよく登場します。しかし、それらには具体的な条件が示されるのではなく、ぼんやりとイメージでとらえているにすぎません。これでは実践可能な「土づくり」の目標になりません。

良い土であるための4条件

私が考える良い土とは、作物生育を阻害する要因を持たない土です。しかし、これも具体的な情報のない漠然としたイメージにすぎません。そこで、数値情報を含めた良い土であるための4条件を表1に示しました。土の物理的性質にかかわる2条件と、化学的性質にかかわる2条件です。これら4条件を満たす土は、作物の生育を阻害しないと考えるからです。
ところが、これでもまだ問題があります。それは、土の物理的性質にかかわる2条件のことです。

表1 作物生産にとって良い土であるための4条件とその具体的指標(松中,2018)

表1 作物生産にとって良い土であるための4条件とその具体的指標(松中,2018)

土の物理的性質の改良は簡単ではない

土の物理的性質にかかわる2条件のうち、根が伸びていける土の厚み(有効土層)が50cm以上という条件があります。これは、深さ50cm以内に根が伸びていけないほどの硬い岩盤や緻密なレキの層などが存在しないことを意味します。しかし、仮にそういう土層が地下にあっても、営農努力でそれらを改良することは一朝一夕にできるものではありません。
土の物理的性質にかかわる条件にはもう一つあります。それは土が粘土のようではなく、かつ砂のような土でもない、すなわち中粒質の土(具体的にどのような土であるかは表1参照)であることです。中粒質の土は、水はけ(排水)と水持ち(保水)の両方とも作物生育に良い状態にあるからです。しかし、ここで問題にしている土の粒子の大きさは、土の原料となった岩石の種類や風化時間によって決定されるもので、人為によって変化させることは困難です。粘土っぽく、雨が降れば長靴の底にへばりつきやすく、乾燥するとガチガチの硬い土になるような土(粘質な土=細粒質の土)を、フカフカのやわらかい土にするというようなことはほぼ不可能です。このような土の性質は風化時間という気の遠くなる時間によってつくられたものだからです。
よく、堆肥を与えたらガチガチの土がフカフカの土に変化するという人がいます。堆肥を与えるだけでそれが実現できるなら、ガチガチの土は地上からなくなっているはずです。どんな堆肥をどのぐらいの量、どのぐらいの期間与えたらガチガチの土がフカフカの土になるのか、それに回答できる人はおそらくいないでしょう。

実践なしでは改良なし

しかし、だからといって何もしなければ、土の物理的性質を改良できません。地道にコツコツとガチガチの土に堆肥(どんな堆肥がよいかは次回以降で解説)を10a当たり2~3トンぐらい与え続ける努力が必要です。しかもそれは、親から子、孫、ひ孫と世代を超えて継続する忍耐をも要求されます。
これに比べて土の化学的性質の2条件は、具体的な営農努力で容易に改良できます。酸性の土には炭カルなどを与えることで、また養分条件は土壌診断の結果から肥培管理を修正することで改良できます。
ところで、表1の4条件に基づき、草地の土を改良しようとするとかなり難しいのです。それは草地という特殊事情があるからです。次回に詳しく説明したいと思います。