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「土・草・牛」を考える

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No3「酪農家のための土づくり講座」
土づくりは堆肥と言うけれど…何のために堆肥を与えるのか

酪農学園大学名誉教授松中照夫

これまでたくさんの酪農家と土づくりについて話し合ってきました。そんな時、酪農家の多くは「堆肥を十分に与えることで土づくりをしています」と語られます。酪農家の皆さんにとって、堆肥は土づくりの万能薬、何にでも効き目があるようです。でも、本当に堆肥は万能薬なのでしょうか。

酪農場で生産される堆肥、スラリー、消化液

酪農場で生産されるふん尿処理物にはおよそ次の三種類です。すなわち、①乳牛のふん尿と混合副資材(牛床の敷料など)で生産される固形物の堆肥、②ふん尿混合物のスラリー、そして③ふん尿をメタン発酵処理した後の消化液です。堆肥は固形物ですが、スラリーや消化液は流動性が大きい液状物です。このうち、今回は堆肥を取り上げます。スラリーと消化液については次回で考えます。

そもそも土づくりとは何か

土づくりとは作物生産にとって良い土をつくることです。作物生産にとって良い土とは、次の四つの条件の目標値を満たした土です。すなわち条件として、①土の厚みと硬さ、②土の水持ちと排水性(以上の二つは土の物理的性質にかかわる条件)、③pH(酸性度)と、④養分(以上の二つは土の化学的性質にかかわる条件)で、これらの条件の具体的目標値は連載第一回の記事で述べました。
この四つの条件のうち、どの条件が作物生育を最も阻害しているのか、それを具体的な目標値と比較して土づくり対象の圃場で見つける必要があります。見つけた条件をさまざまな手段で具体的に改良すること、それが土づくりです。ただやみくもに堆肥をやりさえすれば、作物生育にとって良い土になるわけではありません。
それだけでなく、酪農場では栽培する作物がちがう圃場があります。このちがいも土づくりに大きな影響を与えます。

堆肥に期待できる効果は草地と飼料畑でちがう

酪農家が管理する圃場には、大きく分けてトウモロコシなど飼料用の作物を栽培する畑(飼料畑)と、牧草を栽培する草地とがあります。
このうち、草地はとても特殊です。草地ができあがると、土地を耕起できず、堆肥は草地表面に散布されるだけで、土とよく混合できません。土の物理的性質を改良するには堆肥を土とよく混合しなければなりませんので、表面散布された堆肥に土の物理性改良効果を期待できません。期待できる効果は、土の化学的性質にかかわる酸性改良や養分としての効果です。このことについては、前回の記事で詳しく述べました。
一方、飼料畑は草地とちがいます。毎年、畑の土を耕起し、土と堆肥を混合できますから堆肥を与えることによって、良い土であるための四条件のすべてに改良効果が期待できます。しかし、酪農場で生産される堆肥は酪農場ごとにちがいますので、生産される堆肥によって、期待できるおもな改良効果もちがってきます。それを飼料畑で具体的に考えてみます。

酪農場の堆肥の腐熟度は混合副資材で変わる

土づくりというと「使う堆肥は完熟堆肥」と言われます。しかし、この言い伝えは必ずしも正しいとは思えません。土づくりの目的よって、それに適した堆肥の種類があるからです。どんな目的でも完熟堆肥で十分とはいえません。
いわゆる完熟堆肥とは、堆肥を生産する過程で、堆積されている堆肥を何度も切り返し、空気を十分に送り込み、堆肥を分解する微生物の働きを活発にしてしっかりと分解をすすめ、黒色で不快なにおいがなく、手で触ってもべたつかない状態に変化させた堆肥です。
このような状態の堆肥を完熟堆肥というなら、酪農場の牛ふん堆肥は、見かけ上、未熟堆肥です。ところが、堆肥の腐熟度を見かけや手触りといったことではなく、微生物の分解しやすさで判断することがあります。それは、堆肥の中の炭素(C)と窒素(N)の比率(C/N比)を調べ、C/N比が小さいほど分解されやすいと判断する方法です。一般に完熟堆肥とされる堆肥のC/N比は20より小さく、20~30は中熟、30以上は未熟堆肥とされています。
酪農場の堆肥のC/N比は、混合される副資材(敷料など)に牧草や麦わら、稲わらなどを使った場合は20より小さく、見かけとは異なり完熟堆肥の仲間に入ります。混合副資材にオガクズや木材チップなどの木質物を用いた場合は、C/N比が20から30くらいに大きくなりますので中熟堆肥です。

わが家の堆肥の腐熟度は完熟、それとも中熟?

ご自分の農場では、混合副資材に何を使っていますか?木質物を使っているのであれば、生産される堆肥は、腐熟化促進のための切り返し作業を何度か加えないかぎり、中熟堆肥と考えられます。この中熟堆肥は、畑で土の物理的性質にかかわる条件を改良するために適しています。10a当たり3トンを上限にして、毎年飼料畑に投入し、土とよく混合します。
なぜ完熟堆肥より適しているのか、それは完熟堆肥よりも土の中の分解速度が遅いので、分解される途上でつくられる黒色の物質が多く残るからです。この黒色物質(腐植物質という)こそ、土の物理的性質の改良効果をもたらす物質ですから、この物質を多くすることで土の物理的性質が徐々に改良されていくのです。もちろん、この改良効果は、すぐに現れるわけではありません。世代を超えて長期間継続してはじめて現れるものです。土の物理的性質の改良はたやすいことではありません。
また、こうした中熟や未熟の堆肥を与えると、施肥窒素の効き目が悪くなることがある(窒素飢餓という)ので、窒素の施肥量に注意する必要があります。土の中の微生物が肥料窒素を体内に取り込み、タンパク質合成に利用するからです。

堆肥を与えたらその養分量を無視しない

一方、混合副資材が牧草や麦わら、稲わらなどであるなら、生産されている堆肥は、見かけがどうであれ、完熟堆肥とみなせます。この堆肥なら、土の化学的性質にかかわる条件を改良するために適しています。このような堆肥は、酸性改良はもちろん、土の中で比較的早く分解されて堆肥に含まれていた養分が放出されて肥料的効果が現れます。しかもその効果は畑に与えたその年から期待できます。
したがって、この放出されてくる養分効果を無視してはなりません。きちんと評価し、堆肥から放出される養分量をその圃場で必要な施肥量から減らして施肥する必要があります。そうしないと、土の養分が過剰状態となり、悪影響がでます。与えた堆肥からの養分量を考慮して施肥量を決めるというのは、堆肥を草地表面に散布した場合も同じです。
以上、今回の内容を図にまとめました。参考にしてください。

図1 酪農場で生産される堆肥を飼料畑に与える場合、堆肥から期待できるおもな改良効果と注意すべきこと

図1 酪農場で生産される堆肥を飼料畑に与える場合、堆肥から期待できるおもな改良効果と注意すべきこと