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「土・草・牛」を考える

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No2「酪農家のための土づくり講座」
草地という特殊性が堆肥の効果を限定する

酪農学園大学名誉教授松中照夫

前回は作物生産にとって良い土であるための4条件を示しました。その4条件とは、①土の厚みと硬さ、②土の水持ちと排水性、③酸性度(pH)、④養分に関することでした(具体的な目標値は前回記事を参照)。ところが草地の土を対象にすると、この4条件があてはまりにくいのです。その原因は草地という特殊性にあるのです。以下で考えてみましょう。

土の物理的性質の改良は難しい

作物生産にとって良い土であるための4条件のうち、①と②は土の物理的な性質に関する条件、③と④は土の化学的性質に関する条件です。この土の物理的性質に関する条件を営農努力で改良するには、その努力を親、子、孫と世代を超えて長期間継続する必要があることを前回述べました。物理的性質の悪い粘土っぽくガチガチで排水の悪い土に堆肥を与えると土がホクホクしてくるという人がいます。しかし、どんな堆肥をどのくらいの量、どのくらいの期間与えたらそうなるのでしょう。私はそんなうまい話はないと思っています。
仮にあったとしても、それには堆肥を土にすきこみ、土と十分に混ぜ合わせる必要があります。つまり毎年、堆肥を土に与え、それを耕起して土になじませなければ、硬い粘土質の土が軟らかくなったり、排水が良くなったりはしないでしょう。

草地の特殊性―堆肥は表面散布だけ

草地の土を耕起できるのは新規に造成するか、草種構成が悪化した草地を更新するかのいずれかの機会以外にありません。牧草が定着した後は、畑のように毎年耕起して堆肥と土を混ぜ合わせることができないのです。草地に堆肥を与えるといっても、それは草地の表面に散布するだけです。
したがって、草地で土の物理的性質を改良するために堆肥を与え、土と混ぜ合わせようとしても、造成もしくは更新の時の一回限りしかその機会がないのです。その一度の堆肥すき込みだけで、土の物理的性質を改良できるのでしょうか。

堆肥の効果はすきこみと表面散布で違わない

図1を見てください。これは、道北の重粘土の古い草地で更新時の堆肥の与え方や与える量の違いが、更新後の草地の牧草収量にどのような影響を与えるかを調べた試験結果です。
試験処理は、更新時の堆肥の与え方として、①堆肥の全量(10a当たり10t、または20t)を土にすきこんで十分に混ぜ合わせた場合(混和)と、②その量を5年に分割し(10a当たり2t、または4t)、それを5年間毎年草地の表面に散布した場合(表面)の2処理です。与えられた堆肥の量は試験期間5年でみると同じです。
重粘土は文字通り、粘土っぽくガチガチで排水性が悪く、物理的性質が悪い代表格の土です。ですから、与えた堆肥と土をよく混和することで、この土の物理的性質が改良されるなら、牧草生産に良い影響を与えるはずです。もしそうであるなら、堆肥を混和する方が表面散布よりも多収となることが期待できます。しかし、5年間の平均牧草収量は、混和と表面散布で大きな違いはありません。この結果は窒素の施肥量が違っても変わりません。
表面散布した堆肥は土に混和していないので、もともと物理的性質を改良する効果が期待できません。その表面散布処理と混和処理が同程度の収量だったわけですから、草地更新という一度しかない機会に堆肥を与えて土と混和したとしても、土の物理的性質を改良するほどの効果はなく、養分的な効果だけが認められたということをこの試験結果は示しています。
別の試験ですが、同じ重粘土の古い草地において、更新時に超大量の堆肥(最大10a当たり80t)を深さ60cmまで(通常の2倍の深耕)の土にすき込み、さらに土地改良(心土破砕と暗渠)を組み合わせた場合でも、更新後8年間にわたる試験期間で、土の物理的性質の改良効果は明らかではなく、堆肥の養分的効果だけが認められました(松中ら,2017)。

図1 重粘土草地(オーチャードグラス主体)の更新時の堆肥の与え方と与える量が更新後の牧草生産におよぼす影響(三木,1993)

図1 重粘土草地(オーチャードグラス主体)の更新時の堆肥の与え方と与える量が更新後の牧草生産におよぼす影響(三木,1993)

無:堆肥を与えない処理
混和:堆肥を草地更新時に全量与えて土と混和する処理
表面:与える堆肥の1/5の量を、5年間毎年草地表面に散布する処理
更新後の草地に対する施肥量は、表示している窒素のほかにリン、カリウム などすべて同じである

草地では土の物理的性質を改良する営農手段がない

土の物理的性質を改良するには土の中に堆肥などの有機物を与え混和する作業を、世代を超えて忍耐強く継続する以外に方法がありません。
ところが、草地は牧草栽培が始まると基本的に土を耕起しません。このため、草地で堆肥を土と混和できるのは、新規造成もしくは更新の一度限りしかありませんので、土の物理的性質を大きく変化させるのが難しいのです。ですから、作物生産にとって良い土であるための四条件のうち、土の物理的性質に関する二つの条件が劣っていたとしても、草地ではそれを手っ取り早く改良することができないのです。
いやいや、心土破砕のように草地に切れ目を入れてやれば改良できるという人もいます。しかし、このような処理の効果は短期間しか持続しません。重粘土のような物理性の悪い土の草地で、水分条件が適当でない時におこなうと、草地表層をめくりあげ、かえって草地を傷めることがあります(図2)。また、シバムギのような地下茎型牧草の割合が多い草地で切り込みを入れると、地下茎が細断拡散されてシバムギ割合をさらに高めることもあります。このため、切り込み処理はあまりお勧めできません。

図2 切り込み処理で傷んだ草地表層

図2 切り込み処理で傷んだ草地表層

江別市野幌の重粘土草地。春、土の水分がやや乾燥した条件で切り込みを入れたため、草地表層がめくれあがった例

土壌診断の重要性が大きい

草地を対象とした時、牧草生産にとって良い土であるためには、土の物理的性質に関する二つの条件が劣っていても、それを改良する営農上の手段がありません。したがって、土の化学的性質に関する二つの条件(①土の酸性度(pH)、②養分含量)が適正な範囲に入っていることが、良い土であるためにとても重要となります。
これらは土壌診断によって分かります。3年に一度くらいで土壌診断を実施し、草地が牧草生産にとって良い土であるかどうかを判断してほしいのです。診断結果から、堆肥や化学肥料をどのくらい与えれば適量であるかも分かります。草地を高収で長持ちさせるために、草地の土壌診断はとても重要なのです。