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「土・草・牛」を考える

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No4「酪農家のための土づくり講座」
土づくりは堆肥と言うけれど…スラリーや消化液はどうする?

酪農学園大学名誉教授松中照夫

この土づくり講座の最終回です。前回は、酪農場のふん尿処理物として堆肥、スラリー、メタン発酵消化液(以下、消化液)の三種類があり、そのうちの堆肥を土づくりにどう使うかを考えました。堆肥に期待できる効果は草地と飼料畑とでちがうこと、また使われる混合副資材によって生産される堆肥の腐熟度がちがい、その腐熟度に適した土づくりの改良目標があることを説明しました。今回は、スラリーと消化液で考えます。

スラリーと消化液、堆肥と何がちがう?

スラリーと消化液が堆肥と決定的にちがうのは水分率です。道内の酪農場で生産された堆肥、スラリー、消化液の調査結果によると、堆肥の平均水分率は73%と最も低く、ついでスラリーの92%、最も高いのは消化液で95%でした。堆肥が固形物であるのに対してスラリーや消化液が流動しやすいのはこのためです。水分率が高いほど肥料成分の濃度は薄まりますから、堆肥、スラリー、消化液のそれぞれを同じ量を散布しても、投入される養分量はちがうので注意が必要です。

メタン発酵でふん尿の悪臭が消え、量は変わらず

メタン発酵処理は、原料のスラリーを空気に触れない条件にして、さまざまな微生物の働きによってメタンガスを発生させ、消化液を生産します。メタン発酵処理で最も重要なことは、酪農場のふん尿処理にともなう悪臭問題をほぼ解決してくれることです。これは、悪臭の原因物質(有機酸類)が微生物の働きで無臭のメタンに変わるからです。
問題は生産されるのがガスなので、原料となるふん尿と生産される消化液の量には大きな差がないことです。ふん尿をメタン発酵処理施設(バイオガスプラント)に運べば、メタンになって消えてしまうのではありません。原料のふん尿は、そのままの量が消化液として残ります。ですから、生産された消化液を散布する圃場が十分確保されていないと、消化液を過剰に散布しなければならず、環境に悪影響を与えます。

メタン発酵は水分率を高め、窒素の肥効を速める

図は、メタン発酵処理によって原料のスラリーがどのように変化して消化液となったのかを示しています。
大きな変化は、乾物率が低下する(水分率が高まる)ことです。これはふん尿の固形分(有機物)がメタン発酵の過程で分解されて減るためです。また、消化液はアルカリ性側に変化するためpHが上がります。先に述べたように、悪臭原因の有機酸類がメタンに変わって酸性物質が減少するからです。
肥料成分は、原料スラリーと消化液で変化しません。つまり肥料成分は完全に温存されます。ただし、有機物が分解される過程で、有機態窒素の一部が無機態のアンモニア態窒素に変化しますので、前者は減り、後者が増加します。このため、窒素成分の全量にちがいがなくても、アンモニア態窒素の割合が増えますので、窒素肥効の現れ方は原料スラリーより消化液のほうが速くなります。

図1 メタン発酵処理による原料スラリーから消化液への成分変化(松中ら,2002)

図1 メタン発酵処理による原料スラリーから消化液への成分変化(松中ら,2002)N:窒素,NH4-N:アンモニア態窒素,P:リン,K:カリウム、Ca:カルシウム,Mg:マグネシウム

N:窒素,NH4-N:アンモニア態窒素,P:リン,K:カリウム、Ca:カルシウム,Mg:マグネシウム

スラリーと消化液は養分供給資材

前回、ふん尿処理物の腐熟度を判断する指標として炭素(C)と窒素(N)の比率、C/N比のことを説明しました。C/N比が小さいほど腐熟が進み、分解されやすい有機物と判断します。
酪農場で副資材に麦わらや牧草などを用いた堆肥は、C/N比が20より小さく、主に肥料的効果を期待する資材だと前回述べました。これに対して、スラリーの平均的なC/N比は10前後で、堆肥より小さいのです。また、消化液のC/N比は、そのスラリーよりもさらに小さくなり、10以下のことが多いのです。このことは、スラリーや消化液が堆肥以上に分解されやすい有機物で、肥料的効果の大きい養分供給資材であることを示しています。
逆にいうと、スラリーや消化液は、分解されずに土に残って土の物理的性質の改良効果を示す有機物の割合が少ないので、土の物理性改良には適さない有機物といえます。

消化液を飼料畑へ散布する時に注意すること

消化液はスラリー以上に水分率が高いので、圃場に散布すると、地形によっては流動することがあります。草地に散布された場合は、牧草がその動きをくい止めてくれるので大きな問題にはなりません。しかしトウモロコシなどの飼料畑で、何も栽培されていない時期に消化液を散布すると、トラクタの車輪の跡のようなわずかなくぼみでも、そこに向かって流れていくことがあります(写真)。
これでは散布された消化液が偏り、圃場の土に含まれる肥料成分が不均一となって作物生産に悪い影響がでます。
とくに秋の飼料畑は、何も栽培しない状態で越冬します。この状態の秋に消化液やスラリーを散布してはなりません。肥効が悪いだけでなく、地下水を汚すからです。これは、消化液やスラリーに含まれるアンモニア態窒素が土の中で微生物によって硝酸態窒素に変化し、越冬期間中に地下水へ流れ去ってしまうからです。硝酸態窒素はマイナスの電気を帯びており、土が持つマイナスの電気と反発するため、土に保持されにくいのです。
なお、堆肥を飼料畑に与えるなら、地温がしっかり低下した10月中旬以降、土壌凍結前までの期間限定作業です。

写真

草地で肥効最大化には秋と春に分けて散布する

スラリーや消化液を草地に散布する場合、散布量が同じでも、秋または春だけに全量与えるより、秋と春に半量ずつ分けて散布するほうが肥効を大きくします。スラリーや消化液の散布機は重量が大きいため、融雪後早く草地に入れません。この春の遅れは牧草収量を致命的に減少させます。その遅れを前年秋散布された養分が補い、その肥効が切れかかったときに春散布された養分が加わるので肥効が最大化するのです。
ブロードキャスタによる化学肥料の散布は、ふん尿処理物の散布機より軽量なので、春早くからできます。越冬後、草地の緑色が鮮やかに光り輝くようになったら、まずはブロードキャスタで肥料をまくこと、これが牧草増収の秘訣です。

わが家の有機物、期待できる効果は何か

土づくりは堆肥からとよく言われます。しかし、酪農場では堆肥を生産するところもあれば、スラリーや消化液のところもあります。ご自分の農場で生産されるふん尿処理物に期待できる効果をよく考えて、それらを有効に利用して土づくりに生かしたいものです。