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「土・草・牛」を考える

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No2「酪農家のための草づくり講座」
草づくりの基本は良好な草種構成の維持

酪農学園大学名誉教授松中照夫

前回は「土づくり、草づくり、牛づくり」の言葉の真意が何なのかを考えました。そして本気で草(自給飼料)からの乳生産を目指しませんかと提案しました。今回は、その草づくりの基本は良好な草種構成の維持であることを再確認したいと思います。草地の維持管理法は草地の種類(放牧草地、採草地、兼用草地)によって大きくちがいますので、以下では採草地を対象にして考えます。

草種構成が草地の収量に強く影響する

42年も昔のことです。草地の牧草収量が経年的に低下するのはなぜか、その原因を見つけるために根室管内758カ所の草地を対象に大規模な実態調査がおこなわれました。
その結果、収量に最も強く影響を与える要因は、草種構成であることがつきとめられました。対象地点の気象条件や施肥量、さらに草地の経過年数、土の酸性化や養分不足、不適切な刈取り管理といった要因ではなかったので驚きでした。
しかしよく考えると、草種構成は、当初想定した様々な要因が草地に与えた影響を総合的に反映した結果と理解できますから、単独の要因として収量のちがいをうまく説明できるのだと納得できました。

草種構成をなぜ問題にするのか

たとえば畑作で、春まきコムギの畑にダイズも一緒に種まき(播種(はしゅ))することは考えられません。一方、草地ではイネ科植物のチモシーにマメ科植物のアカクローバやシロクローバなどが混ぜまき(混播(こんぱ))されます。この混播は、まったく性質のちがう植物(草種)を同時に播種して育てることを意識的におこなうことですから、草種構成の維持とは、播種した草種をきちんと維持していくことにほかなりません。
畑作では、畑に播種した一つの作物だけを考えて管理すればよいのです。しかし、混播草地では特定の草種だけを考えて管理すると、別の草種に悪影響を与える場合もあります。ですから、それぞれの草種がそれなりにうまく生育し続けられるように、折り合いを付けて管理するという難しい栽培管理が必要となります。
草種構成を問題にするのは、この折り合いをつけた草地管理をきちんと実践したいからです。そうでないと、草種構成がいつのまにか変化し、播種していない地下茎型イネ科草(リードカナリーグラス、シバムギなど)の他に、ギシギシやアザミ、フキといった雑草に置き換わってしまうのです。これが草種構成の悪化です。

混播するのはどうして?

そもそも、草種構成の悪化は性質のちがう草種を混播するから発生するのです。混播せず単純に一つの草種だけを播種する(単播(たんぱ))なら、草地管理が難しくならないのに、なぜ混播するのでしょうか。それには二つの理由があります。
一つ目は、草からの乳生産のために、草の栄養価を高めたいからです。イネ科牧草だけで採草利用すると、タンパク質含量が低く栄養価が低下します。それを補うのがタンパク質含量の高いマメ科牧草なのです。
二つ目は、マメ科牧草の共存で、草地への窒素施肥量が大きく節減できるからです。マメ科牧草は、根に寄生する根粒菌のおかげで窒素肥料を必要としません。また、マメ科牧草の茎葉が刈取りによって脱落したり、枯死したりして草地に添加されると、それが土の窒素供給力を高めます。このため、混播草地のマメ科牧草の割合(マメ科率)が高いほど窒素施肥量は少量でよくなるのです。

草地の窒素施肥適量はマメ科率によってちがう

混播草地のマメ科率が高いほど窒素施肥量を少なくできるのなら、窒素の施肥適量はマメ科率に対応してちがってくるはずです。このことも、酪農場の採草地での試験結果から裏付けられました。すなわち、目標とする年間生草収量を10a当たり4.5トンとすると、それを実現する窒素施肥適量はマメ科率によって異なり、10a当たり4kgから16kgまで、4倍ものちがいがあります(表1)。

表1 チモシー基幹採草地のマメ科率による区分と窒素施肥適量
(北海道施肥ガイド、2020)

表1 チモシー基幹採草地のマメ科率による区分と窒素施肥適量(北海道施肥ガイド、2020)

草種構成を悪化させる不適切な窒素施肥管理

12年前に、42年前と同様の実態調査がおこなわれました。先の調査から30年が経過し、草地の草種構成が悪くなりやすくなったのではないかと考えられたからです。
その調査結果によれば(図1A)、草地更新後、わずか6年目で地下茎型イネ科草がチモシー割合より2倍も高まり、マメ科牧草の割合も5年目で大きく低下しました。経年的な草種構成の悪化は、42年前よりはるかに早く進行していたのです。
一方で、草地への窒素施肥量はこうした草種構成の変化と関係なく、ほぼ同じ量でした(図1B)。こうした画一的で漫然とした施肥実態は42年前も同じで、30年間、何も変化していなかったのです。

図1 2009年の根釧管内採草地の草種構成と施肥の実態調査結果
(根釧農試、2012)

図1 2009年の根釧管内採草地の草種構成と施肥の実態調査結果(根釧農試、2012)

表1のマメ科率区分による窒素施肥適量から判断すると、更新後数年の窒素施肥量は適量より多く、これではチモシーがマメ科牧草を抑圧します。さらに、チモシーがまだ主体草種である4年目ころまでなら、窒素を10a当たり10~16kgに増やせば、チモシーの生育が旺盛となり、地下茎型イネ科草の増加を防げたかもしれません。
草種構成にみあった施肥管理をすれば、草種構成の悪化を防いで良好に維持されることが、17年もかけて調べられた試験で確認されています。草種構成を無視した不適切な施肥管理は、播種した草種を衰退させ、地下茎型イネ科草や雑草の増加を許す要因の一つです。
しかし、それだけでこれほどの急速な草種構成の悪化がもたらされたのでしょうか。

過去に経験しない事情が草種構成の悪化を加速する

42年前の調査対象草地は、多くが原野から新規造成された草地でした。しかし、最近の草地は草種構成が悪化した草地を耕起し、播種しなおす更新草地がほとんどです。更新前にはびこった地下茎型イネ科草の地下茎や、ギシギシの種子などが蓄積した草地を耕起すると、地下茎は細断され拡散して再生し、表面に出たギシギシの種子は光を感じて一気に出芽します。これは42年前の経営者が経験しなかったことです。
こうした過去に経験しない事情も草種構成の悪化に拍車をかけている要因でしょう。

草種構成の維持にとくに重要な二つのこと

結局、現在の採草地で草種構成を良好に維持するには、次の二つがとくに重要です。
まずは草地更新時に、地下茎型イネ科草やその他の雑草を確実に根絶すること、これが大前提です。この具体策は、次回詳しく述べます。もう一つは、混播草地の草種構成に対応した適切な施肥、とくに窒素施肥管理の徹底です。