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No4「酪農家のための草づくり講座」
茎数密度維持のための施肥管理はイネ科草種でちがう

酪農学園大学名誉教授松中照夫

いよいよ最終回です。草地の牧草生産は、基本的に草地で主体となっているイネ科牧草によって支えられています。そのイネ科牧草をきちんと維持するということは、その茎数密度(単位面積当たりの茎数)を維持するということにほかなりません。今回は、草地で代表的なイネ科牧草であるチモシーとオーチャードグラスをとりあげ、それぞれの茎数密度を維持して、草種構成を安定させる施肥管理法を考えます。

イネ科牧草の茎数密度の維持がとくに重要

混播草地で草種構成を良好に保つには、マメ科牧草の維持はもちろんのこと、イネ科牧草の茎数密度も維持する必要があります。草地の乾物生産はイネ科牧草が中心となっておこなわれるからです。
イネ科牧草は植物体としては多年生です。しかし、イネ科牧草の植物体を構成する個々の茎(分げつという)が何年も生きながらえているのではありません。それぞれの茎には寿命があり、短くて1年、長くても数年くらいです。
このためイネ科牧草の茎数密度維持には、枯死する古い茎から新しく発生する茎への新旧世代交代を円滑にして、少なくとも枯死する茎数に比べ、新しく発生する茎数を同等以上にしなければなりません。ところが、この茎の世代交代の時期が、代表的なイネ科牧草であるチモシーとオーチャードグラスではまったくちがっているのです。このため、茎数密度を維持するための施肥管理が両者で異なるのです。

チモシーの茎の一生

年間2回刈取りのチモシーを主体とする採草地の場合、茎の新旧世代交代は1番草刈取り後です。つまり、チモシーの茎の一生の始まりは夏の1番草刈取り後なのです。
新しく発生した茎は、そのまま2番草を構成して刈取られます。刈取られても大部分の茎は死ぬことなく、そのまま越冬します。翌春、越冬したチモシーの茎はどんどん伸び(節間伸長という)、ほとんどの茎が穂を持つ茎(出穂茎)になって、1番草収量に大きく貢献します。1番草収穫で刈取られると、大部分の茎は寿命を終えて枯死します。枯死するのは、茎が伸びて穂を持った(出穂した)ことで茎の成長点(正しくは茎頂)が刈取り高さより上になり、刈取りで成長点が切除されるからです。1番草刈取り後、チモシー草地が枯れ草色の茶褐色に変化するのは、刈取りによって1番草を構成した茎が枯死するからなのです(図1)。
このため、1番草刈取り後に草地が緑色に変わるには、新しい茎の発生が必要です(図1)。新しい茎の発生で茎の新旧世代交代が完了します。新しい茎が古い茎の脇から芽をだして再生するには7~10日間くらいかかります。チモシーの再生が遅いのは新旧の茎がほぼ完全に世代交代するからです。

図1 チモシーの1番草刈取り後14日目の様子

図1 チモシーの1番草刈取り後14日目の様子

1番草刈取りから2週間経過し,やっと草地に緑色がもどる。再生している茎の葉先は刈取られたあとがなく,刈取り後に新しく発生した茎であることがわかる。新しい茎の寿命は翌年の1番草刈取りまでである

1番草刈取り後の窒素が新しい茎の発生を促進する

このチモシーの茎の一生からみて、チモシーの茎数密度を維持するには、1番草刈取り後の新しい茎の発生促進がとくに重要であることがわかります。したがって、茎の発生促進効果の大きい窒素を施肥しないというのは、茎数密度維持にとって最悪です。チモシーの採草利用での密度維持に必要な茎数の目安はm2当たり1500本程度です。その茎数確保のためには2~4kg/10aの窒素を施肥する必要があります。この時にしっかりと新しい茎を発生させておかないと、経年化にともなって加速度的に茎数密度が低下します。それは雑草の侵入を許すことを意味します。

多収のための施肥管理

茎数密度維持に重要な施肥時期が1番草刈取り後であるなら、多収のための施肥で重要な時期はいつでしょうか。
これは皆さんよくご存じのとおり、早春の施肥です。春にチモシーの葉の色が越冬後のくすんだ緑色から、輝く緑色になったころが施肥適期です。適期が近づけば可能な限り早く施肥するのが1番草多収の秘訣です。施肥適量は草地のマメ科率に対応した量です。

オーチャードグラスの茎の一生

オーチャードグラスの茎の一生はチモシーよりやや複雑です。オーチャードグラスは秋になって昼間の時間が短くなり、それに低温の条件がそろうと新しい茎を発生させます。
年間3回刈取りのオーチャードグラスを主体とする採草地の場合、秋に発生した新しい茎と、もともと3番草を構成していた古い茎は、越冬期間中の低温で花芽(穂の原基)をつくる体制を整えます。越冬したこれら茎(越冬茎)のうち50%くらいが、1番草期の昼間の時間が長い条件で茎を伸ばして出穂茎となります。この出穂茎は1番草刈取りで成長点が切除されて枯死します。
ただし、越冬茎のうちの残り50%程度は節間伸長していない茎(これを栄養茎という)です。栄養茎の成長点は刈取り高さより下にあるので、1番草刈取後も成長点が生き残ります。このため、栄養茎は刈取り後ただちに再生します。オーチャードグラス草地で刈取り後すぐに緑色がよみがえるのは、このためです(図2)。チモシーの茎の一生との決定的な違いは、オーチャードグラスが越冬茎の50%くらいを栄養茎として2番草以降にも生きながらえさせるということです。

図2 オーチャードグラスの1番草刈取り後4日目の様子

図2 オーチャードグラスの1番草刈取り後4日目の様子

再生している茎の葉先がまっすぐ平らなのは,そこで刈取られたことを示している。つまりこの茎は,刈取り時にすでに存在していたことがわかる。この茎は成長点が生き残っているため,刈取り後ただちに再生できる。その結果,草地は刈取り後すぐに緑色になる

秋の窒素施肥は茎数密度維持と1番草多収効果あり

オーチャードグラスの各番草を構成する茎の主な発生時期は、3番草刈取り後の秋です。したがって、秋の窒素施肥はオーチャードグラスの茎数密度維持にかかせません。この場合、チモシーと同様に、2~4kg/10aの窒素施肥で十分です。
この秋の窒素施肥は、新しい茎の発生促進だけでなく、1番草の出穂茎数も増加させる効果があります。すなわち、秋の施肥に加えて越冬後の早春にも窒素を施肥すると、出穂茎数が増えて増収効果が期待できます。ただし、ここでいう秋の窒素施肥は、最終刈取りを刈取り危険帯(刈取りが牧草の越冬性を低下させる時期。北海道の場合、10月上中旬)の前におこない、その後すぐにおこなう施肥を意味しています。それ以外の秋に窒素施肥しても出穂茎数の増加効果はなく、したがって、1番草多収効果もありません。この点は要注意です。
これまで2年間にわたって土と草のお話をしました。草地を多収で良好に維持するには、基本技術を確実に実行することにつきます。この連載では、その基本技術をお話ししました。少しでも参考になれば嬉しいです。長らくおつきあい下さり、ありがとうございました。