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「土・草・牛」を考える

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No3「酪農家のための草づくり講座」
強害雑草の根絶が草地更新成功の絶対条件

酪農学園大学名誉教授松中照夫

草地の草種構成を良好に維持することは草づくりの基本です。しかし、 近年の草地の経年化にともなう草種構成の悪化は、40年ほど前とは比較にならないほど早くなっています。
これは、雑草地化した草地を更新しても、すぐに地下茎型イネ科草が復活し、再び雑草地に戻ること、つまり草地更新の失敗を意味しています。今回は草地の全面耕起による更新を成功させるための基本を考えます。

過去の草地更新の経験は現在に通用しない

前回でも述べましたが、40年くらい前までは、草地の多くは原野を切り拓き、新規に造成される草地でした。牧草の種子がこの新天地にまかれて草地となっていったのです。この時、地下茎型イネ科草(リードカナリーグラス、シバムギ、ケンタッキーブルーグラス、レッドトップ、メドウフォクステイル(黒穂)、ハルガヤ(スイートバーナルグラス)など)やギシギシ、フキ、アザミといった広葉雑草などはほぼ存在していませんでした。しかし、現在の更新対象の草地は、これらの強害雑草が優占し、草種構成が悪化しています。その草地をプラウで反転耕起して播種するのですから、過去の経験を現在の草地更新に生かせないのです。

除草剤処理なしの耕起更新は雑草に拡散の機会を与える

皆さんもよく経験されているとおり、地下茎型イネ科草の地下茎は、ほんのわずかな痕跡でも残れば、そこから草が復活再生します。フキやアザミといった広葉雑草の根も地上部を取り去ったくらいでは消滅しません。こうした強害雑草が優占する草地を、これまでどおりプラウで耕起し、ロータリハロで整地すると、強害雑草の地下茎や根が細断されて拡散し、そこから雑草が再生してきます。
こうして更新初年目には多くみられなくても、その後すぐに雑草が復活してくるのです。
ギシギシは生育しながら種子を大量に生産して草地表面に落とし、落ちた種子は経年化にともなって草地表層に蓄積し、土に埋もれていきます。このような種子を埋土種子といいます。リードカナリーグラス、メドウフォクステイル、ハルガヤなども地下茎型イネ科草の仲間ですが、地下茎で繁殖するよりもギシギシと同じように、夏に種子を生産して草地に埋土種子となって蓄積します。
この埋土種子は死滅することなく、土の中で休眠状態となります。そして次の更新時に、地下で休眠していた埋土種子が土の耕起反転によって、再び表層に戻ります。表面に戻った埋土種子は光をうけて目を覚まし、出芽して再生します。
つまり、雑草化した草地を従来どおり反転耕起で更新することは、かえって雑草たちの拡散に千載一遇の好機を与えることになるのです。このため除草剤処理をしないで耕起更新しても、播種した牧草が優占する良好な草地に戻る割合は40%程度でしかないのです(根釧農試、2012)。
したがって、更新前に優占している強害雑草をその根から完全に枯殺するために、どうしても除草剤処理が必要になるのです。

草地更新時の除草剤処理理想は2回処理

地下茎型イネ科草、とくにリードカナリーグラスやシバムギが優占する草地の更新を確実に成功させるには、2回の除草剤処理が理想です。1回目の処理は、更新予定の草地を反転耕起する前です。2回目は1回目のあと、土壌改良資材などを与えて整地し、表層を播種するにふさわしい土(播種床)にして鎮圧したあとです。それぞれに除草の目的がちがいます。
1回目の目的は、更新したい草地を優占する既存の強害雑草のすべてを枯殺し、土地をリセットすることです。地下茎型イネ科草の地上部だけでなく地下茎まで完全に枯殺したいので、利用する除草剤はグリホサート系の非選択性除草剤(ラウンドアップマックスロードなど)です。当然のことですが、薬剤の使用にあたっては、用法と用量を防除基準どおりにしっかり守ることが前提です。
薬剤処理の適期は、地下茎からの再生が一段落する夏以降です。とくに秋は貯蔵養分を地下部へ蓄積する時期ですから、地下茎へ薬剤が効率よく浸透するので効果的です。
2回目の処理の目的は生き残った雑草や、ギシギシ、ハルガヤなど埋土種子から再生した雑草も含めて枯殺することです。すなわち、1回目の処理後に播種床を造成し、その後、埋土種子やその他の雑草を再生させる期間として30日間くらい確保します。この期間で除草剤の効果がよくみられるように地上部を繁茂させたいのです。こうして雑草を十分に再生させたあと、牧草の播種10日前ころから播種当日までの間に除草剤を散布します。この処理を播種床処理といいます。
この耕起前処理と播種床処理の2回の処理時期には注意すべきことがあります。もともと除草剤の効果は夏から秋に高まります。しかし、播種床処理が遅くなると播種した牧草が越冬に耐えられるだけの生育期間が確保できなくなります。したがって、牧草種子の遅まき限界(晩播限界)を考え、そこから逆算して播種床処理を決め、さらにそれから30日くらい前にさかのぼって耕起前の除草剤処理の時期を決めなければなりません。
下の図は、除草剤処理の当年に播種する場合と翌年に播種する場合の事例をまとめたものです。

図 地下茎型イネ科草種に対応したチモシー採草地の草種構成改善指針
(北海道農政部編,平成28年普及奨励ならびに指導参考事項から作成)

図 地下茎型イネ科草種に対応したチモシー採草地の草種構成改善指針(北海道農政部編,平成28年普及奨励ならびに指導参考事項から作成)

ハルガヤの埋土種子対策は数年間必要

埋土種子で再生する雑草の中でもハルガヤの種子生産量はとくに多く、リードカナリーグラスの10倍くらいにもなります。したがって、一度の播種床処理で完全に枯殺することはできません。このため、埋土種子がなくなるまで数年間かけて、たとえば飼料用トウモロコシや畑作物のコムギやテンサイなどを作付けし、選択性除草剤(トウモロコシの場合はゲザプリムフロアブル、秋コムギにはガルシアフロアブル、テンサイにはセレクト乳剤など)を利用して完全に防除する対策が必要となります。

除草剤処理は最終手段

除草剤で強害雑草を枯殺するというのは、かなり強引な手段です。なるべくなら除草剤を使用しない対策で草地をリセットしたいのです。しかし、現状の草地では、問題の強害雑草を根絶しなければ、耕起更新しても良好な牧草が優先する草地によみがえらせることができません。強害雑草はそれほど手強い相手なのです。
いいかえると、そこまでして更新した草地ですから、二度と除草剤の世話にならない草地として維持管理しなければなりません。その秘訣を次回の最終回で述べたいと思います。