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No3「酪農家のための牛づくり講座」
栄養と繁殖 - RFSとBCSによる栄養状態の把握と適期受胎 -

帯広畜産大学 准教授川島千帆

分娩後どのくらいの時期に受胎させることが最も効率の良い経営になるのかは、農家ごとに異なると思いますが、各農家の事情に応じた「適期」に受胎させたいという思いは同じです。適期受胎を実現させるためには、良好な栄養状態を保つことが必須です。そこで今回は、生産現場でできる栄養状態の把握方法について解説します。

飼料設計の答え合わせは日々の飼育作業時に確認

みなさんは、「牛が想定通りに食べてくれる」ということを前提にエサの種類や乳量に応じて飼料を設計し、毎日複数回の給餌とエサ寄せをされていると思います。飼料設計から乳生産、牛の成長につながる一連の流れの中で飼育者が確実にできることは飼料設計から給餌までです(図1)。採食、つまり「牛が想定通りに食べるかどうか」はエサ(特に粗飼料)の品質や牛の健康状態、気候の変化によって左右され、さらに飼槽まで自由にアクセスできるフリーストールやフリーバーン牛舎の場合は、過密や牛群内の順位によって弱い牛や若い牛がはじかれて想定通りにならない場合もあります。また、想定通りに食べられない場合は、摂取した飼料から得られる栄養分のバランスが崩れて、うまく消化できずに乳量低下や体重減少、さらに疾病や不受胎を引き起こす場合もあります。そのため、日々の管理の中で牛が想定した通りにエサを食べていること、さらにそれが消化されて乳量や体重の変化に反映されていることを確認する必要があります。
これらを確認する手段が、ルーメンフィルスコア(Rumen fill score:RFS)とボディコンディションスコア(Body condition score:BCS)です。後ほど詳しく解説しますが、RFSは採食、BCSは体脂肪蓄積を視覚的に評価するものです。

図1.飼料設計から生産まで~RFSとBCSが反映するもの~

図1.飼料設計から生産まで~RFSとBCSが反映するもの~

ルーメンフィルスコア:RFS

RFSはルーメンの充満度、つまりルーメン内の飼料片などの固形物と飲み水やエサに含まれる水分などの液体とルーメン内発酵で生じるガスを全て含めたものを反映します。従って、ルーメン内で異常発酵が起こり、ルーメンがガスで膨れ上がるような異常事態でなければ、採食量をリアルタイム(過去12時間以内)に把握できます。推奨値は搾乳牛では3以上、乾乳牛では4以上です。分娩直後の牛はスコア1を示すこともありますが、通常は半日~1日で2以上に戻ります。
RFSの測定部位は、左側の最後肋骨・横突起(おうとっき)・腰角で囲まれたルーメン窩(左けん部とも言う)です(図2)。この部分のへこみ具合や膨らみ具合をスコア1~5の5段階で評価します。正確な測定方法はやや煩雑です。そのため、日々の飼育作業時におおよその採食状況を把握できるように各スコアの視覚的な特徴のみを図2に示しました。スコアごとに形が異なるので判断しやすいのではないでしょうか?エサをいつでも食べられる環境下で、搾乳牛・乾乳牛の推奨値を牛群全体が上回っているか、また、牛群内で極端に食べられない牛がいないかを判断します。牛群全体のスコアが低い場合は飼料そのものの品質や粗飼料と濃厚飼料の配合ミスなどを確認し、特定の牛のスコアが低い場合は、過密や食い負けを確認して弱い牛に対策を講じることができます。

図2.RFSの測定部位(上段)とスコアの特徴

図2.RFSの測定部位(上段)とスコアの特徴

ボディコンディションスコア:BCS

RFSは知らないがBCSは知っているという方は多いのではないでしょうか?BCSはお尻まわりの皮下脂肪の蓄積具合を評価するため、中・長期的に継続した栄養状態の指標といえます。牛の体の大きさに関わらず、その骨格に応じた評価ができるため、体重を測定するよりもちょうど良い肉付きかどうかを判断できます。しかし、RFSに比べて測定方法はかなり煩雑です。大学の実習で、学生は測定方法をまとめたフローチャートを使っていますが、相当な回数をこなさなければ、フローチャートなしでの測定は難しく、また安定した測定ができません。従って、ここでは乾乳期・泌乳期を通したBCSの推移とそこでポイントとなるスコアの写真を示します(図3)。
図3の下のグラフの青で示した範囲は、北海道の乳牛の標準的な範囲ですが、その中央を推移するように管理すべきです。分娩後は泌乳最盛期に向けて、ほとんどの牛でBCSが低下しますが、低くても2.50を保つように全体のエサや個体ごとのエサを調整することが重要です。その後は泌乳中後期に向けて徐々に回復させますが、乾乳に入る時には3.25~3.50、そして乾乳期はあまり太らせず維持することがポイントです。しかし、泌乳後期に太った牛を乾乳期に痩せさせるのは厳禁です。乾乳期、特に分娩前の1ヶ月間は胎子が1.5~2倍に急成長するため、痩せさせると母牛の分娩後の生産性だけでなく、生まれた子牛の体質にも悪影響を与えます。しかし、乾乳期の過肥は分娩後の代謝障害(ケトーシスなど)の原因になります。従って、乾乳期と泌乳期を通して安定した栄養状態を保つには、泌乳中後期のBCSの回復が鍵になります。

図3.BCSの測定部位(左側)と乾乳期~泌乳期のBCSの目安

図3.BCSの測定部位(左側)と乾乳期~泌乳期のBCSの目安

RFS・BCSの活用で適期受胎を!

BCSと繁殖成績(初回排卵・子宮修復・初回授精日数・空胎日数等)との関係を調査した研究は多くあります。これらの結果からいえることは、①乾乳期の過肥や削痩は×、②分娩後からのBCS減少はできるだけ小さく(1.00未満)、③泌乳最盛期のBCS最低値からの回復は早い方が良いということです。これらをクリアするには、遠回りに思えるかもしれませんが泌乳中後期のBCSを適切に保つことが近道です。そして、BCSに反映される中・長期的な栄養状態を達成させるためには、日々の飼育作業時にRFSをみながら、想定通りに食べているかを確認することが重要です。特に分娩前は飼育スペースの過密や牛群内の順位だけでなく、代謝の変化で十分に食べられない牛が出てきます。そのまま放置すると分娩後の代謝障害を引き起こし、一方で、乳量は十分とはいえなくても生理的に増加してしまい、発情回帰や子宮修復が遅れて空胎日数延長のリスクが高まります。この場合、BCSは低下し続け、低値になっても長期的に回復しないという推移を示します。
また、分娩に向かい生理的にRFS(採食量)が低下し始めるのは1週間前からです。その時は、立っている時間が長い、少しずつ靭帯が緩み乳房が張ってくるといった分娩兆候が現れます。それよりも前にRFSが低下した場合は、分娩後の代謝障害や初回排卵遅延につながり空胎日数が延長するため対策が必要です。グリセリンは手に入りやすく、一時的に採食が落ちた牛に使いやすい補助飼料です。液状の場合は500ml程度を1週間給与すると採食の回復がみられます。また、採食低下の予防も兼ねてクロースアップ期(分娩前3週間)にペレット状グリセリン(グリセリン量として80g/日)を給与することも有効です。