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酪農の省力化機械

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第1回 搾乳ロボット 労働負担の軽減で牛群拡大

生産基盤の維持・拡大が求められる中、労働負担の軽減が重要課題となっている。新企画「酪農の省力化機械」第1回目は、全道的に注目が集まっている搾乳ロボットについて、導入事例を通して紹介する。

北海道の搾乳ロボット導入の推移

資料:北海道畜産振興課

資料:北海道畜産振興課

搾乳作業の自動化により、大幅な省力化を実現する「搾乳ロボット」。生産現場で人手不足を始めとした多様な問題が浮上する中、酪農生産者を重労働から解放する新たな時代のツールとして、全道的に脚光を浴びている。

北海道畜産振興課によると、平成26年2月1日現在、道内で搾乳ロボットを導入している酪農生産者は150戸。ロボットの性能が飛躍的に向上していることもあり、年々右肩上がりで普及が進んでいる。

ロボットの活用は、労働負担の軽減以外にも数多くのメリットがある。搾乳回数の増加で乳量アップが見込めることに加え、搾乳作業からの解放により、余剰時間を牛群管理などに充てることが可能だ。経営規模を拡大したければ、既存の労働力でも無理なく増頭を進めることができる。

ロボットの導入には相応の投資が求められるものの、搾乳の自動化が酪農経営にもたらすメリットは極めて大きい。農水省の畜産クラスター関連事業の後押しもあり、道内では今後も導入が拡大していくことが確実な情勢だ。

FS牛舎を一人で管理

十勝農協連の十勝畜産統計によると、同管内では昨年、酪農生産者6戸が新たに搾乳ロボットの導入に踏み切った。音更町の株式会社ふくち(福地能卓代表)もその一つだ。

同牧場は家族6人で酪農と畑作を手がける複合経営。飼養頭数は130頭(経産牛90頭)で、平成27年の出荷乳量は640トンだった。

株式会社ふくちの経営概況

2ボックスタイプのMIone

2ボックスタイプのMIone

以前から過重な労働負担が問題となっていたため、搾乳部門の省力化に向けて、平成27年12月にロボット搾乳へ移行。

導入したのは、ドイツの酪農機械メーカー、GEAファームテクノロジーズの「MIone」(エムアイワン)だ。日本ではオリオン機械との合弁会社、GEAオリオンファームテクノロジーズが販売している。

福地代表は「畑作の農作業が終わるのは夕方6時頃。搾乳作業はその後だから、夜10時くらいまでかかっていた。労働負担の厳しさは半端ではなかった」と以前の状況を振り返る。

130頭規模のフリーストール牛舎

130頭規模のフリーストール牛舎

しかし、ロボット導入後は、こうした過重な労働負担が一気に解消された。MIoneの導入に合わせて新築した130頭規模のフリーストール(FS)牛舎の管理は息子の裕揮さん一人に任せ、福地代表らは乳房の形状などがロボットに合わない乳牛40頭弱の搾乳を担当するのみ。

その分、畑作部門に専念できるようになったという。

裕揮さんは「現在、FS牛舎には乳牛が61頭しかいないが、2年以内にフル生産できるようにしたい。ロボットがあれば、牛群管理は一人で問題ない」と語る。

福地代表は「ロボットに合わない牛は、既存のスタンチョン牛舎で管理している。ロボット導入前は2時間かかっていた搾乳作業が、導入後は40分に短縮された」と明るい表情だ。

ゲートで搾乳条件設定

同牧場が導入したMIoneは、飼養規模に応じて搾乳ボックスを最大5つまで拡張できる「マルチボックスシステム」を採用している。搾乳推奨頭数は2ボックスが100~120頭、5ボックスが200~250頭となっている。

同牧場はFS牛舎の規模に合わせて2ボックスタイプを導入したため、同時に2頭搾乳することが可能だ。

牛舎構造は、搾乳ロボットを通らなければ、牛がエサを食べられない設計となっている。また、乳牛ごとにさまざまな搾乳条件を設定し、「事前選別ゲート」で搾乳の可否を制御している。条件に合わない牛はゲートが自動的に弾くため、搾乳したばかりの牛が誤ってロボットに入るといった心配はない。

搾乳ロボットの事前選別ゲート

搾乳ロボットの事前選別ゲート

同牧場では①1日当たり乳量が30kg以上の牛の搾乳間隔は最低6時間、②30kg以下の牛は最低8時間―などと、泌乳ステージに応じて搾乳回数を調整しているという。

搾乳後に乳房炎などの牛を自動的に分離エリアへと誘導する「搾乳後分離ゲート」も設置されている。手動でも操作可能なため、治療が必要な牛を容易に隔離することができる。

福地代表は「MIoneを選んだのは、こうしたワンウェイゲートで牛群管理できることが大きい。また、MIoneは酪農経験がない人でも使えるくらいシステムが分かりやすい。ミルキングパーラーのように牛の立ち位置が高く、手動で搾乳しやすい点も魅力」と語る。

同牧場はロボットの稼働に合わせ、牛の発情を発見する「カウスカウト」(GEAオリオンファームテクノロジーズ)も導入した。牛の足に装着したタグで、活動量などを測定する装置だ。搾乳後の分離ゲートと併用し、発情が確認された牛を分離エリアに誘導・隔離することができ、効率的な人工授精に役立っている。

同牧場はこのほか、自動給餌機やバーンスクレーパーなどの省力化機械も導入した。FS牛舎を含めた総事業費は約2億円で、このうち2ボックスのMIoneは約5000万円。ロボットや自動給餌機、換気扇などは畜産クラスター関連事業(リース事業)の対象となったため、約3000万円の補助を受けることができた。

福地代表は「投資額が非常に大きいため、当初はロボット導入を躊躇する気持ちもあった。しかし、息子が5年前に後継者として帰ってきたことや、農水省の畜産クラスター関連事業などが後押しとなり、ロボットの活用を決断することができた」と話す。

労働力増やさず規模拡大

福地代表はロボット導入について「今のところメリットづくし」と顔をほころばせる。

労働負担が大幅に軽減されたのはもちろん、1日当たりの個体乳量が平均で4~5kg増加したという。平均搾乳回数が2.9~3.0回まで増えたためで、今年の出荷乳量は前年比40%増の900トンを目標にしている。

また、ロボットは搾乳した生乳のデータが詳細に分かるため、牛の状態を把握しやすくなったことも大きい。疾病の早期発見・早期治療によって、被害を最小限に抑えることが可能となった。

福地代表は「牛をロボットに馴れさせるのも、大きな苦労はなかった。早い牛は2日、遅い牛でも1週間程度でロボットに馴染んだ。乳房の形状などでロボットに合わない牛もいるが、既存設備を生かすため、スタンチョンでの繋ぎ飼いも並行して続けていく」と語る。

福地能卓代表(右)と裕揮さん

福地能卓代表(右)と裕揮さん

今後の展望については「将来的にはMIoneを3ボックスに増やし、150頭ほど搾れるようにしたい。牛群管理に人手がかからない分、畑作部門の更なる充実も図る。当初は投資額を返済していけるか心配だったが、ロボットの稼働から3カ月程度で不安感はなくなった。現在の労働力のまま規模拡大を図り、究極の家族経営を目指していきたい」と意気込んでいる。

牛舎レイアウト