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酪農の省力化機械

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第3回 哺乳ロボット
哺乳量増加で子牛の発育向上

哺乳ロボットは哺乳にかかる作業を自動化するばかりでなく、給与乳量・回数の増加を通し、子牛の健全な発育も促す。種付時期が通常より約2カ月も早まるなど、乳牛の生涯生産性の向上にも大きく貢献することが可能だ。

個体価格の暴騰で市場からの乳牛導入が困難となる中、北海道の酪農現場で自家育成による後継牛の確保が喫緊の課題となっている。
だが、子牛の育成にかかる労働負担は決して軽くはなく、なかでも哺乳作業は1日数時間に及ぶことも珍しくない。後継牛の確保を効率化する上で、子牛管理にかかる労力を少しでも軽減したいというのは酪農生産者の偽らざる本音だ。
「乳牛の生涯生産性を高めるためにも、子牛は健康的に育てたい。何とか省力化と両立できないか…」
こうした要望に応えるツールとして、現在、急速に注目を集めているのが「哺乳ロボット」だ。哺乳作業をすべて自動化するばかりではなく、個体ごとに給与乳量や回数などを設定可能で、子牛の健全な発育を促すことができる。

哺乳作業が自動化

中標津町の田中洋希さんは、年間1450トンの生乳を出荷する家族経営だ。スタンチョン牛舎で乳牛250頭(うち搾乳牛150頭)を飼養する。規模拡大で哺乳管理にかかる労働負担が重くなる中、平成13年から哺乳ロボットの導入に踏み切った。
27年に機種を更新し、現在はデラバル社の「カーフフィーダーCF1000」を使っている。

田中洋希さんの牧場の概要

田中洋希さんの牧場の概要

デラバルのカーフフィーダーCF1000

デラバルのカーフフィーダーCF1000

田中さんの牧場ではロボットを導入するまで、1日につき朝晩2回、計3~4時間かけて哺乳作業を行っていた。労働負担は「搾乳に匹敵するほど重かった」が、ロボットの活用でこうした作業はすべて自動化され、大幅な省力化につなげることができた。
田中さんは「哺乳ロボットは哺乳舎に設置している。人間側は機械に粉ミルク(代用乳)や添加剤をセットするだけで、あとは子牛が自由に飲みに来る形。うちの牧場では、生後10日~2カ月程度の子牛を常時10~15頭ほど管理しているが、
ロボットの導入で哺乳作業を自動化することができなければ、規模拡大の道を歩むことは難しかっただろう」と話している。

子牛の発育が向上

田中さんが哺乳ロボットを導入したのは、何も労働負担の軽減だけが目的ではない。給与乳量・回数の増加を通し、子牛の健全な発育を促すことができるのも大きな決め手となった。
田中さんは「子牛への哺乳は、手作業だと朝晩2回が限界。しかし、ロボットならばタグで個体を識別し、1日ごとの乳量と回数を適切に調整することができる」と説明する。
田中さんの牧場では、子牛はおおよそ3~4時間おきにロボットからミルクを飲めるよう設定しており、1日の平均哺乳量は1頭当たり8Lに及ぶ。ロボット導入前の5Lに比べ、1.6倍へと増加した計算だ。
この結果、子牛の生育は大幅に早まり、通常であれば14カ月齢で行う人工授精も、12カ月齢へと2カ月短縮したという。
田中さんは「初産分娩月齢が早いほど、乳牛の生産性は向上する。酪農経営上、哺乳ロボットのメリットは極めて大きい。また、哺乳温度を一定に保ってくれるため、手作業でやる場合に比べ、子牛への負担が少ないという利点もある」と語る。

疾病の感染に注意

哺乳ロボットは省力化や子牛の発育向上など多くの効果が見込める一方で、運用に当たっては注意も必要だ。子牛への授乳は共通のゴム製乳頭を通して行うため、牛群の中で風邪などの病気が感染しやすい。
田中さんは「作業が自動化されるからといって、機械任せにしてはいけない。哺乳ロボットを使うのならば、労働負担が軽減される分、自分の目で各個体をしっかりと観察することが重要だ」と強調する。
北海道酪農検定検査協会によると、北海道では乳牛の子牛が年間で約5万頭も斃死しているのが実態。初妊牛や初生牛などの個体価格が高騰する中、子牛の死廃事故が発生した際の損失は大きい。哺乳ロボットを活用する場合は、子牛のきめ細やかな飼養管理を徹底することが最大の課題と言えそうだ。

信頼のおける省力化機械

田中さんがカーフフィーダーCF1000の導入にかかった費用は、工事費なども含めて250万円前後だったという。これまで目立ったトラブルが発生したことはなく、「非常に使いやすい機械だ」と信頼を寄せる。
田中さんは「哺乳ロボットは故障も少なく、とても扱いやすいおすすめの省力化機械。個体ごとの哺乳量・回数なども記録されるため、飼養管理にも生かすことができる」と話す。
さらに、「生後すぐの故障は、成牛になってからも響いてくるため、健全な発育を促すことは極めて重要。また、子牛の時から多くのミルクを給与し胃袋を大きくすれば、将来の採食量の向上も期待できる。ただ、病気がうつりやすい点だけは気を付ける必要がある。ウチの牧場も優秀な後継牛の確保に向けて、哺乳ロボットを最大限に活用しながら、個体育成に力を入れていきたい」と強調している。

哺乳ロボットの順番待ちをする子牛たち

哺乳ロボットの順番待ちをする子牛たち

田中洋希さん(左)と羊子さん夫妻

田中洋希さん(左)と羊子さん夫妻