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スマート酪農

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3Kのイメージが定着している酪農。また、少子高齢化の影響で担い手不足も加速している。そんな酪農のイメージをがらりと変える「スマート酪農」への期待が高まっている。今回から、牛群管理に役立つ省力化システムについて紹介する。

第1回 「モバイル牛温恵」
母牛の体温変化で分娩時期を特定

分娩管理の省力化

皆さんは分娩事故の経験はないだろうか。牛の分娩は予定日に20日前後の幅があり、時期を正確に特定できない。飼養頭数が年々増える中で、乳牛の分娩時期は精神的・肉体的負担が高まる。さらに、近年は初妊牛価格が高騰しており、分娩事故は将来の貴重な戦力を失うことから経営に与えるダメージは大きい。
株式会社リモート(大分県別府市・宇都宮茂夫代表取締役)の「モバイル牛温恵」は温度センサー(体温計)で母牛を監視し、「分娩の約24時間前」「1次破水時」「発情の徴候」などを検知してメールで知らせる遠隔監視システム。これまでのように24時間体制で観察する必要がなく、分娩管理の省力化と安全分娩に役立つ。

体温変化で分娩を予告

上川管内上富良野町の対馬徹さんは現在、耕地35haに総頭数100頭(経産牛50頭)を飼養、年間出荷乳量600tという家族経営農家だ。「見た目と違い、私は意外に神経質な性格なんですよ」と苦笑交じりに話を切り出した対馬さんは「牛が分娩するまでは寝られない、出掛けられない。だから、分娩予定牛がいると肉体的にも精神的にも疲れる。そんな時に知ったのがモバイル牛温恵でした」と語る。分娩事故予防を目的に平成26年に導入した。
モバイル牛温恵は分娩予定牛の膣内に温度センサーを挿入し、牛の体温変化をリアルタイムでパソコンなどに送信し、分娩予定時刻の24時間前には携帯電話などにメールで通知する。
「分娩予定牛の膣内に手を突っ込んで頚管の開き具合を調べ、何度も統計を取ってみたが、全くあてにならない。頚管が緩んでいても全然産まない牛もいれば、頚管が締まっていても3時間後に産む牛もいる。牛は分娩約24時間前から体温が下がり始める。この機械は、牛の生理を利用した画期的なシステム」と対馬さん。

体温センサーを挿入

体温センサーを挿入

分娩予定牛の体温変化を随時知らせる

分娩予定牛の体温変化を随時知らせる

分娩に関する各種通報

同システムには分娩予定時刻を24時間前に知らせる「段取り通報」ほか、破水による分娩直前を知らせる「駆けつけ通報」、段取り通報後に産みたくても産めない時に知らせる「SOS通報」、発情が始まった時の「発情徴候通報」、どこからでも登録や閲覧ができる「家畜管理台帳」などの機能が備わっている。
「実際に使ってみると、面白いぐらいに分かりやすい。牛のちょっとした体温変化がタブレットのグラフ上に表れるので、これは分娩するなと自分で判断できる。また、破水したら携帯電話に連絡が来るので分娩準備をする時間も取れる。1日3回ほどタブレットをチェックするが、グラフで体温に変化がなかったら、まだ分娩時期ではないと分かる」と対馬さんはタブレット片手に説明する。

初期投資は50万円程度

現在、対馬さんは3本の体温センサーを分娩2週間前の牛に挿入している。導入コストは通信用の親機、子機に加え、体温センサー3本、ストッパーなどで50万円程度。毎月のランニングコストはシステム使用料などで5000円ほどだ。昨年の分娩時死亡事故はゼロだった。
「昔からわが家では分娩事故は発生していなかったが、それは分娩しそうな牛がいたら夜中でも牛のそばで経過を観察しているからだ。それだけ気を使っているし、分娩牛を絶対に放置しない。

体温センサーとストッパー

体温センサーとストッパー

朝行ったら生まれていたということは一切ない。だから今は、精神的に本当に楽になったよ」という言葉に実感がこもる。
対馬さんが分娩にこだわるのは「牛は子牛を生まないと乳は出さないし、後継牛も確保できない。そういう点では分娩は酪農経営の原点」という酪農家のプライドがあるからだ。

性格が細かい人向き

対馬さんは最後にこうつぶやいた。「モバイル牛温恵は、性格的に細かい人でなければ使えないでしょうね。だらしない人には向いていない。牛を見ないで放置する人や、単に楽をするために入れるのでは長続きしない。  

タブレットを見つめる対馬さん

タブレットを見つめる対馬さん

酪農家のプライドとして、本気で分娩事故をなくそうという気持ちがなければ宝の持ち腐れになるでしょうね」と。そして「酪農は人間の都合でなく、牛の都合で物事を考えなければ、何事もうまくいかないだろうね」と言って大きくうなずいた。

※スマート酪農=ロボット技術やICT(情報通信技術)を活用して超省力・高品質生産を実現する新時代の酪農