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第4回 東宗谷農協のタブレット全戸配布

「家畜統合管理システム」の活用で生産性の向上を!
東宗谷農協(佐藤裕司組合長)ではタブレットPCを酪農生産者全戸に無料配布しており、個体識別情報を核にしたクラウド型「家畜統合管理システム」の活用と情報の共有化を通して経営の合理化と省力化に役立てている。その概要を取材した。

タブレット全戸配布の目的

東宗谷農協は、平成28年春に管内の酪農生産者全戸(109戸)にタブレット(通信料含む)を無料配布した。同農協の石黒敦営農部長は、その背景について「当農協では全戸にファクスは入っているが、それだけでは農協からの一方通行の情報であり、次世代の営農支援を行っていくには不十分。双方向通信を可能にする必要があった」と説明する。こうした取り組みを推進していく鍵となったのが「家畜統合管理システム」である。

酪農データがばらばらで使いづらい

同農協では、昭和50年から乳牛検定事業、昭和60年に人工授精システムを独自開発、平成11年には家畜個体識別モデル事業に参画するなどデータの共通化に前向きに取り組んできた。しかし、牛群検定、人工授精、牛の個体識別のデータが別々のシステムで集積されているため、酪農生産者への情報のフィードバックがばらばらで、現場ではかねてからデータの有効活用が難しい状況になっていた。

石黒部長のデスクの上にはパソコンモニターが2台並ぶ

石黒部長のデスクの上にはパソコンモニターが2台並ぶ

また、家畜人工授精、家畜委託販売、牛群検定立会、ホルスタイン登録などの農協業務も、乳牛に対するデータが散在することにより、個体、牛群、農場全体、地域全体の情報分析や支援業務を行う上で困難を極めていたという。
一方、酪農生産者も飼養頭数が増えてくるに伴い、牛の出生や死亡などの申請は複数に報告しなければならず煩わしく、さまざまな酪農検査機関から送られてくる紙ベースのデータは「頭数が多くて牛を探すのが大変」「紙が多くてまとめきれない」などの意見とともに、「データがばらばらで使いづらい」との声も上がっていた。

データを一元化した「家畜統合管理システム」

東宗谷農協が平成26年度から3カ年計画(農水省の家畜個体識別システム利用促進事業・総事業費の2分の1補助)で取り組んだ「家畜統合管理システム」は、クラウドサーバーを使うことにより酪農経営にかかわる多種多様なデータを一元化するものだ。具体的には、クラウドサーバーに「家畜販売管理」「人工授精情報」「生乳生産管理」「クミカン管理」「預託牛管理」などの農協のさまざまなデータをシステム化して保存。それに加え、各関係機関から「個体識別」「乳牛検定」「疾病」などの情報がリアルタイムで提供され、クラウド上でデータ連携している。従って、酪農生産者は配布されたタブレットで「家畜総統合管理システム」にアクセスすれば、各自の牧場に関するさまざまなデータが一目で確認できるようになっている。

酪農生産者への情報のフィードバック

石黒部長は「同システムでは散在したデータを集積し、共有化することにより酪農生産者が行う報告業務をスリム化できる。また、農協や支援団体も効率的な業務を実現でき、酪農生産者への有益な情報のフィードバックが可能となった」と目を細める。さらに、石黒部長は「最近流行するクラウド型牛群管理システムは自分たちでデータを入力しなければいけないが、このシステムは乳牛検定をはじめとしたさまざま情報がリアルタイムで自動的にインプットされる。酪農生産者が直接入力するのは、農協に対する牛の出生・死亡などの申請や授精依頼などに限られる。従って、もしタブレットを1週間使わなくてもデータは自動的に更新されているので、いつでも再開できることもメリット」と話を続けた。
便利機能の一部を紹介すると、例えば「グラフ分析機能」を使えば、各農場の分娩・出生頭数・泌乳ステージ別頭数・牛群産次構成の月別推移を生産グラフに、発情発見・受胎状況などの月別推移を繁殖グラフに、出荷乳量の推移・分娩後乳業の分布・体細胞数の推移や乳成分の比較を生乳グラフに、産次別除籍状況・乳房炎原因別発症頭数や疾病原因別状況を疾病グラフに見やすく表示してくれる。さらに、農場ごと、農協管内、地域(猿払村・浜頓別町)の中での個体の位置も一瞬で確認できる。

 

図:家畜統合管理システムの位置づけ

図:家畜統合管理システムクラウドサーバー

牛の出生・死亡報告や授精依頼に活用

宗谷管内猿払村の白田武士さん(38歳)は「私はまだまだこのシステムをうまく使いこなしているとは言えないが…」と前置きした上で、「牛の出生・死亡報告はこれまで何カ所にも申請しなければいけなかったが、タブレットを使って農協にメールしておけば1回で済む。また、授精に関してもタブレットに授精適期牛が表示されるので、実際に牛を見に行って発情が来ていればタブレットを使って農協に授精を依頼する。言葉なら言った言わないがあったり、電話をしても留守電だったりといら立つこともあるが、この方法ならば間違いがない」と満足げに語る。

「白田牧場」の看板。今年1月から武士さんが経営者に

「白田牧場」の看板。
今年1月から武士さんが経営者に

昭和42年に建てた30頭牛舎に、55年に30頭分を増築した

昭和42年に建てた30頭牛舎に、
55年に30頭分を増築した

クミカン内容を見直し、ロスを減らす

現在、白田牧場は武士さん、千恵さん(35歳)の若夫婦と両親(新一さん=65歳、まゆみさん=61歳)の家族4人で、耕地60haに総頭数100頭(経産牛60頭)を飼養する。牛群の平均乳量は約1万kg、乳脂率4.11%、無脂固形分率8.90%で、年間出荷乳量は600t。今年1月1日に父新一さんから武士さんに経営移譲が行われたばかりだ。
新しい時代に向けて経営戦略をじっくりと練る武士さんは「このシステムを大いに活用し、わが牧場のクミカンの内容をいま一度見直してみたい。表面的な無駄はもちろん、飼養技術と経営の兼ね合いの中で無駄飯食いの牛をチェックし、エサや飼料添加剤を調整したりして効率的にロスを減らしていきたい」と気を引き締めた。

タブレットを手に「家畜統合管理システム」のメリットを語る白田武士さん

タブレットを手に「家畜統合管理システム」のメリットを語る白田武士さん

牛舎内部。施設も老朽化してきたが、今後については武士さんがじっくりと検討中

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子牛にはカーフジャケットを着せ、健康に育てることに重点

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搾乳は朝6時、夕方6時から4人でミルカー6台を使いそれぞ1時間半で終わる

搾乳は朝6時、夕方6時から4人でミルカー6台を使いそれぞ1時間半で終わる

確実に見られる飼養管理の改善効果

石黒部長は「この家畜統合管理システムには、個別の酪農経営にかかわる多様なデータが一元管理されている。タブレット一つあれば、いつでもどこでも経営内容を確認できるので、酪農生産者には経営の効率化と生産性向上に役立ててもらいたい」と強調する。
その上で「平成27年度と28年度の対比で、生乳出荷乳量は1.6%増。繁殖関係では初回授精頭数9.9%、受胎頭数5.7%、妊娠率3.5%、発情発見率16.4%それぞれ向上している。雄子牛出荷状況では出荷時平均体重が増加しており、出荷日数も早まっている」と同事業の効果を説明し、飼養管理の改善に大きな手応えを感じていた。