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もうかる酪農その16~実践と理論のはざま~

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ホクレン帯広支所畜産生産課 主任推進役五十嵐 弘昭

飼料の組み立て方の基本① 乾物摂取量と濃厚飼料の給与量

乳牛の乾物摂取量には、粗飼料の出来具合が大きく関わります。品質が高いほど乾物摂取量が多く、濃厚飼料の給与量も少なくて済みます。購入飼料費の大幅削減につながるため、酪農経営にとっては大きなプラスです。

飼養標準の意味

私が30歳になった年のことです。米国のNRC飼養標準が大改定された(1988~1989)3年前の1985年、フランスの飼養標準「大赤本(Alimentation des Ruminants)」の解説本である「PRATIQUE DE L’ALIMENTATION DES BOVINS 2nd Edition (反芻動物の飼養管理の実際 第2版)」が出版されました。
対象としている読者は、農家の現地指導・教育に当たっている飼料会社の営業職員や技術普及員、獣医師などのため、内容は非常に実際的でした。私が始めてフランスの酪農家を訪問したのとほぼ同時期に出版され、案内してくれた現地指導者のほとんどが現場での参考書として使用していたものです。

私はフランスに渡航した際、農家を回った以外にも、飼料会社や県畜産研究所、獣医師学校などを訪問しました。最後にINRA(フランス国立農学研究所)で給与システムの講義を受けましたが、何が印象に残ったかというと、どの農家を訪問しても、飼料会社を訪問しても、そこで述べられることが「首尾一貫して同じ内容」であったことです。
端的にいうと、「自給飼料を最大限に利用する」ということ。その理由は「牛は草食動物だから」、「動物のために良いから」など概念論や観念論に根ざしたものではなく、「その方が経済的に有利だから」という経営者として至極当たり前のことがベースになっているのに感心しました。

大赤本の解説本には「栄養要求量と飼養標準」という項目がありますが、この中では次のように説明されています。
「毎日各種の栄養要求量を完全に満足させることは不可能であり、また、必要がないことである。飼料に関する章では『飼養標準』という言葉を使っているが、ほとんどの場合は、飼養標準は栄養要求量と同じである。ただ、特に泌乳中の雌牛や、育成中あるいは肥育中の動物の場合は、飼養標準が栄養要求量を少し上回っている。飼料が高価な冬季については、哺乳中の雌牛や搾乳されていない雌羊(妊娠後期および泌乳初期)などは、飼養標準が栄養要求量より少なくなることもある。冬季の間、動物たちは痩せながら、放牧期間中に蓄積した体の蓄えの一部を使うことによって(主に体脂肪)、エネルギー不足や窒素物質(=粗タンパク質)の軽微な不足に耐えうることが認められている。高位生産乳牛の場合、衛生的な危険を伴わずに必要な栄養量を摂取することができないため、泌乳初期に痩せるのは避けられない現象である。飼養標準では、この経済的および生理学的な要素を考慮している」
この解説の中で使われている「窒素物質」は、耳なれない表現かもしれません。粗タンパク質は、窒素の総量に6.25を乗じた数値です。これを「粗タンパク質」と表現すると、窒素物質の全てが「タンパク」であるという誤解を生じる場合があります。

飼養標準は、米国のNRCや英国のARC、フランスの大赤本が世界的に有名ですが、このいずれの中でも「産乳量と維持量」に対する栄養の必要量(要求量)が記載されています。つまり、「これだけの生乳を出している乳牛には、これだけの栄養を摂取させなければならない」ということを示しているのですが、産乳量を引き上げるために、栄養摂取量をどこまで増やせばいいかは書かれていません。

乾物摂取量と粗飼料の品質

乳牛の乾物摂取量は体重と泌乳量で推定されるのですが、その他の要因として上げられるのが粗飼料の品質です。飼料の組み立ての基本的な考え方は、乳牛の乾物摂取量を満たすために粗飼料の摂取量を推定した上で、適正な濃厚飼料の給与量を決めることです。品質の高い粗飼料(=乾物摂取量の多い粗飼料)を使用するのであれば濃厚飼料の給与量は積極的に減らさなければなりませんし、品質の劣る粗飼料(=乾物摂取量の少ない粗飼料)の場合には濃厚飼料の給与量が必然的に多くなります。

粗飼料の品質と産乳量の変化

粗飼料の品質と産乳量の変化

給与したTMRのNDF割合が36%の時の最大乾物摂取量

給与したTMRのNDF割合が36%の時の最大乾物摂取量

マーテンスの報告によると、「粗飼料の品質が高い場合は、粗濃比50%で濃厚飼料過多による乾物摂取の低下と泌乳量の減少が生じ、粗飼料の品質が低い場合は、粗濃比50%で濃厚飼料の過少給与による乾物摂取量の低下と泌乳量の減少が生じた」としています。

さらに、「粗飼料の種類(=品質)に応じてNDFの割合を同一にしても、最大乾物摂取量はそれぞれ異なり、生産される乳量も変化する」と述べています。

購入飼料費を大幅削減

表1では、粗飼料の品質と産乳量に対して、濃厚飼料を何kg給与するのが適正かという指標を示しています。

表1) 粗飼料の品質と牛群の産乳量に対する濃厚飼料の適正給与量
(Dairy Essencials, Bobcock Institute)

粗飼料の品質と牛群の産乳量に対する濃厚飼料の適正給与量

粗飼料の品質と牛群の産乳量に対する濃厚飼料の適正給与量

  • ●高品質: 乳牛が体重対比で2.5%(体重600kg、DMI 15kg)摂取できる。
    乾物中のエネルギーは1.45 Mcal NEl / kg(TDN 64%)程度。(生育初期のマメ科牧草など)
  • ●中品質: 乳牛が体重対比で2.0%(体重600kg、DMI 12kg)摂取できる。
    乾物中のエネルギーは1.2 Mcal NEl / kg(TDN 54%)程度。(生育中期のイネ科牧草など)
  • ●劣品質: 乳牛が体重対比で1.5%(体重600kg、DMI 9kg)しか摂取できない。
    乾物中のエネルギーは0.9 Mcal NEl / kg(TDN 42%)程度。(ワラなど)

乳量(乳脂率4.0%)が同じ30~31kgという条件下であっても、粗飼料品質が高い場合は6.6kgDM、中品質ならば9.9kgDM、劣質であれば13.3kgDMが適正ということです。
では、乾物摂取量の指標としてNDFの割合がさほど当てにならない場合、粗飼料の最大摂取量をあらかじめ知る手立てはないのでしょうか。粗飼料の最大摂取量は、理論的には飼料の通過速度(Kp)と消化速度(Kd)の値で推定できるとされていますが、一般的に使用される近赤外線分析(NIR)では、その値を表示することができません。現在手に入るデータで最も確度の高い指標はObと考えられます。Obとは、阿部亮氏が提唱した酵素分析法で示される値で、低消化性繊維の割合を示しています。阿部亮氏は実際に乳牛を使い、乾物摂取量の推定式を発表しています(表2)。

表2) 低消化性繊維(Ob)含量からの牛乾物摂取量(代謝体重当たりg)推定式

低消化性繊維(Ob)含量からの牛乾物摂取量(代謝体重当たりg)推定式

(平成10年度自給飼料評価研究会)
この推定式を利用し、イネ科牧草の乾物摂取可能量を算出したのが表3です。

表3) Obの割合から推定される粗飼料の乾物摂取可能量(体重:600kg、乳量:25kg)

Obの割合から推定される粗飼料の乾物摂取可能量(体重:600kg、乳量:25kg)

※乾物30%のとうもろこしサイレージを単独で給与した場合の最大乾物摂取量は15kg程度

Obの割合が高いほど、乾物摂取可能量が減少していくことが分かります。
こうした事実を踏まえ、表4を見ていただきたいと思います。

表4) 粗飼料の品質と経済性

粗飼料の品質と経済性

※FVDMI=粗飼料乾物摂取量

粗飼料の品質が高い(=乾物摂取量が高い)ほど、飼料効果が優れていることが一目瞭然です。すなわち、粗飼料品質を向上させれば、購入飼料費の大幅な激減が可能であるということになるのです。
次回からは、こうした手法を通して収益性を上げた農家の事例を交えながら、具体的な内容を説明していきましょう。