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もうかる酪農その18~実践と理論のはざま~

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ホクレン帯広支所畜産生産課 主任推進役五十嵐 弘昭

飼料の組み立て方の基本③
自給飼料主体にした高収益農家の飼料組み立て その2

放牧草のサイレージは、収穫作業が年3~4回に増えるものの、乳牛の採食量が多いなど大きなメリットがあります。購入飼料の給与量を減らし、所得の向上につなげることが可能です。

前回に続き、道内のとある酪農生産者から受けた相談を通し、飼料の組み立てについてお話ししたいと思います。
今から8年ほど前、当時まだ若かったホクレン担当者を通じて「ところで、ちょっと相談があるんだ…」との連絡がありました。
相談の内容というのは、経営のことです。彼は、前年に後継者として牧場を継ぐことを決意し、日々の作業に奮闘しておりました。
「今は常時55頭前後を搾乳して、年間480トン前後の生乳を出荷しているんだ。夏期は放牧を取り入れているから、濃厚飼料はほかよりも少ないと思う。でも、もっと儲けたいんだ。何か方法はないかな?」
彼には何やら野望があるようでしたが、その辺りには触れずに確認したのは、「個体乳量を追及したいってわけじゃないんだよね?」ということ。
「そう、収入を増やしたいってことじゃないんだ。収益を増やしたいんだ」
単純に言えば、自分が帰ってきたことで「カマド(食い扶持)」が増えた分、「収益」を増やさなくてはならないということでした。
彼の牧場は自家授精を行っているおかげか、発情発見率が高く、適期授精も徹底されていました。受胎率は高く、分娩間隔が400日を超えることはありません。繁殖成績を維持するためにも、濃厚飼料多給型の高泌乳牛では不安だということです。
施設状況を考えると、増頭にも限界があります。
ロマンへのこだわりがある彼は「酪農はやっぱり、放牧でしょう。放牧は続けたいんだよね」と理想を語ります。
「じゃ、やりようはあるんだけど、軌道に乗るまで結構時間がかかるよ。基本的な戦略としては、牧草の品質を上げて、乳牛の採食量を増やし、その分、買いエサの給与量を減らすという手法だね」
彼は「面白そうですね」と私の提案を気に入り、オーチャードグラスとペレニアルライグラスの混播草地を造成し、収穫作業を年3~4回に増やすことを決めました。

草地に放牧草を混播

彼がこうした取り組みを開始すると、周囲からは厳しい視線が突き刺さりました。
「そんなことをしたら、燃料代の下敷きになるんじゃないか」
「作業が大変になるだけで、何も変わらないんじゃないか」
挙句の果てには、彼の父親から「息子がホクレンが連れてきたコンサルタントに騙されている」とまで言われてしまいました。
イネ科牧草の品質は、刈取り時期で決まります。すなわち、採食量や栄養価は刈り取り時期が早いほど向上し、遅いほど低下してしまうということです。酪農生産者ならば、誰でも経験していると思います。
ただ、イネ科牧草がチモシーの場合は話が別です。刈取りステージが早すぎると草地の植生が劣化するため、数年後には雑草だらけになり、採食性の劣る粗飼料しか収穫できなくなります。
そんな経験を10年以上もしている酪農生産者にとっては、年間3~4回牧草を収穫することは、「現実を分かってない自殺行為」に見えるのも致し方ないのかもしれません。北海道はチモシーの作付比率が全草地面積の90%を超えています。なおさら特殊な方法に感じられたのでしょう。しかし、この手法は欧州ではごく一般的に行われているもので、それを長年見てきた私にとっては何の違和感もなかったのです。
多回刈りをしても植生が劣化しないのは、放牧草と呼ばれている草種です。北海道においては、オーチャードグラスやペレニアルライグラスがこれに当たります。彼は、この二つの草種を半分ずつ組み合わせ、雑草の混入率が高いチモシー畑(5ha)を選定し、1番牧草の収穫後に「モノハタメシで」と追播しました。
年3~4回の刈り取りが本格化したのは、翌年からです。まず最初に、オーチャードグラスの穂はらみ期(6月1~10日)に1番草を収穫します。
オーチャードグラスもペレニアルライグラスも春化要求(幼穂形成に低温条件が必要な特性)が高い草種で、冬を越さない分けつ(根元から枝分かれする新芽)が穂をつけることがなく、1番草以外は出穂を収穫日の目安にすることができません。従って、2番草以降は刈り取り後の日数(40日間隔)に応じて収穫を行います。
また、再生力が強く、施肥反応性が高いため、収穫後の追肥をできるだけ早く行わなければならないのも、チモシーと大きく異なる点です。
2年が経過すると、競合力に劣るチモシーやイネ科雑草、1年生の広葉雑草が衰退し、オーチャードグラスとペレニアルライグラスのきれいな混播草地になりました。
両草種のどちらの草勢が強いかは、畑の条件次第です。実際に作付して、経過を観察しなければ判断することはできません。結果的に衰退した方の草種を追播し、植生の維持を図ります。
収穫作業が最も煩雑だったのは、「モノハタメシで」と5haの混播草地を作った時期です。何しろ、メインの牧草地がチモシー畑でしたので…。当時は、年に5~6回は牧草を刈っていた記憶があります。

採食量が大幅増加

5haの混播草地から収穫したサイレージを1年分貯めておき、いよいよその年の秋から給与が始まりました。
「五十嵐さん、大変です!今、サイロを開けたところですが、ヘンなサイレージが出てきました。これ、食べさせても大丈夫でしょうか?」
当時、若手だったホクレン担当者(今は中堅です)から大声で電話連絡が入ったことを思い出します。
「真っ黒なんですよ!」
「ペレニアルのサイレージはそんなモンだ。匂いは?」
「臭くないです」
「じゃ、大丈夫だから食うだけ食わせてみな」
「えぇぇ、本当に大丈夫なんですか」
何度も念を押されたなぁ。
何しろ、刻んだペレニアルライグラスのサイレージを実際に見たことがあるのは、当時、私一人だけだったのです。
「大丈夫だ」と私が言ったところで、簡単に信用できるものではありません。おっかなびっくりで、少しずつサイレージの給与量を増やしていったそうです。
その電話から2週間後をめどに牧場を訪れると、私の「どうだい?給与量は何kgぐらいまで増えた?」との問いに対し、相談者の彼も、ホクレンの若手担当者も「何kgやっても、食っちゃうんですよ。どこまで給与量を増やせばいいんですか?」と驚いたように言います。
乳牛の状態をみると、乳量は増えていましたが、糞は少し柔らかめでした。
私は「当初の目的を再確認したいんだけど、いいかい」と相談者に聞きました。
「もちろん、いいですよ」
彼は、サイレージを何kg給与すればいいかという単純な疑問に、何を回りくどい言い方をするのだろうと不審げな表情でした。
同行していたホクレン担当者にも「年寄り(もちろん私のことです)は面倒くさいな」との表情が、ありありと浮かんでいました。
私は「この手法の目的は、良いサイレージを生産して1頭当たりの乳量を増やすのではなく、自分で作った粗飼料をできるだけ多く食べさせ、乳量を維持しながら買いエサを減らし、収益を上げることだよね」と言います。
そして、「これからも、その方針通りにやろう。このサイレージならば、トウモロコシサイレージと合わせて、乾物で15kg以上食べるはず(表1)。今の乳量が約30kgなので、牛側から計算した乾物摂取量は23~24kg。濃厚飼料の総量は乾物で8~9kgほど。現物では9~10kgになるかな(表2)。濃厚飼料の量をこれくらいで固定して、あとは粗飼料を増やしていこう」と提案します。

表1 Ob(低消化性繊維)%から推定されるDMI(乾物摂取量)

Ob(低消化性繊維)%から推定されるDMI(乾物摂取量)

注:体重600kg、FCM(脂肪補正乳)25kg、DIM(分娩後日数)90-180日

表2 粗飼料の品質と牛群の産乳量に対する濃厚飼料の適正給与量

粗飼料の品質と牛群の産乳量に対する濃厚飼料の適正給与量

粗飼料の品質と牛群の産乳量に対する濃厚飼料の適正給与量

  • 高品質=乳牛が体重対比で2.5%(体重600kg、DMI15kg)摂取できる。乾物中のエネルギーは1.45Mcal Nel/kg(TDN64%)程度(初期のマメ科牧草など)
  • 中品質=乳牛が体重対比で2.0%(体重600kg、DMI12kg)摂取できる。乾物中のエネルギーは1.2Mcal Nel/kg(TDN54%)程度(生育中期のイネ科牧草など)
  • 劣品質=乳牛が体重対比で1.5%(体重600kg、DMI9kg)しか摂取できない。乾物中のエネルギーは0.9Mcal Nel/kg(TDN42%)程度(ワラなど)

彼は「分かりました。とりあえず、今やっている濃厚飼料を減らして、残飼が出るまでサイレージを増やせばいいんですね」と単純明快な答えを返してくれました。
「給与量の目安は、乳牛用配合飼料6kgにエネルギー系、タンパク系の単味飼料とビートパルプを合計3~4kg。後は、糞や乳牛の状態、集乳旬報の乳成分の変動を見ながら、総量を変えずに単味飼料の配分を調整するというやり方になる。
数字合わせの飼料設計は、とりあえずしなくてもいいから」と私が説明すると、飼料設計を覚えたてだったホクレン担当者は、やや不満顔だったな。
その後、糞と乳牛の状態を見ながら単味飼料を調整する方法を、相談者とホクレン担当者を交え、改めて確認しました。

年間の合計収量は一定

相談者の彼は、放牧草のサイレージを給与し始めてから、わずか2カ月後、オーチャードグラスとペレニアルライグラスの追播面積の拡大に踏み切りました。サイレージに調製する牧草地すべてが、こうした混播草地に切り替わるには、3年ほどかかりました。
彼は最初の取り組みから4年ほどが経過した頃、「いやぁ、すべての草地が変わってしまえば、牧草収穫は3回で済みますから、かえって楽なんですよ。草を刈るのが楽しくなりました」と言っています。
しかし、実はこの時点で問題も発生していたのです。何と、草地の面積が足りなくなってしまったのです。
「調べてはいないんですけどね、牧草の収量は今までより多いと思うんですよ。でも、乳牛がこれまでより1.5倍も多く食べてしまうので、結果的に足りなくなるんですよ。収量を増やすために、牧草の刈取り間隔を延ばしたらどうでしょう?」
私は彼の考えに対し、「オーチャードグラスとペレニアルライグラスには、収量一定の法則があるんだ。つまり、1年に何回刈っても、年間の合計収量にはほとんど差がないということ。だから、刈取り間隔を長くして1回当たりの収量が増えても、刈取り回数の減少で合計収量は変わらない。これが、採草専用種といわれるチモシーと放牧草といわれる草種の違いなんだ。粗飼料が不足するのなら、反収の多いトウモロコシの作付面積を増やすしかないと思うよ」と言います。
彼は私のアドバイスを受けて、トウモロコシ面積を拡大し、粗飼料の不足分を補うことにしました。どれくらい面積を増やせばよいかの計算は、ホクレン担当者が苦労したようです。

購入飼料の削減で利益向上

彼の牧場で安定的に放牧草のサイレージが確保できるようになった時の飼料分析値は、表〈3、4〉の通りです。飼料の組み立ては、表〈5、6〉に示しています。

表3 牧草サイレージ(オーチャードグラス、ペレニアルライグラス混播)の分析値

牧草サイレージ(オーチャードグラス、ペレニアルライグラス混播)の分析値

表4 トウモロコシサイレージの分析値

トウモロコシサイレージの分析値

表5 搾乳牛60頭に対する飼料の組み立て(オーチャードグラス、ペレニアルライグラス混播+トウモロコシサイレージ)

搾乳牛60頭に対する飼料の組み立て(オーチャードグラス、ペレニアルライグラス混播+トウモロコシサイレージ)

出荷日量:1,860kg/60頭、乳脂肪分率:4.11%、乳タンパク質率:3.50%、飼料効果:3.88

表6 搾乳牛57頭に対する飼料の組み立て(トウモロコシサイレージなし)

搾乳牛57頭に対する飼料の組み立て(トウモロコシサイレージなし)

出荷日量:1,850kg/57頭、乳脂肪分率:4.11%、乳タンパク質率:3.543%、飼料効果:3.43

1番草と2番草以降で、サイレージの成分差がないのもオーチャードグラスとペレニアルライグラスの特長です。このため、飼料の組み立てが大幅に変更されることはありません。
彼は「サイレージがチモシー単播草の場合は、さすがにこのやり方では乳量が伸びないばかりか、買いエサの量が増えますよね(表7)」と言いますので、私は「濃厚飼料を多めにやれば乳量は出るけど、どの方法を選ぶかは経営判断になるよね」と答えました。

表7 搾乳牛60頭に対する飼料の組み立て(チモシー単播+トウモロコシサイレージ)

搾乳牛60頭に対する飼料の組み立て(チモシー単播+トウモロコシサイレージ)

出荷日量:1,820kg/60頭、乳脂肪分率:4.01%、乳タンパク質率:3.36%、飼料効果:3.37

「で、どうする?」と聞いてみたところ、彼からは「やっぱり、このやり方でいきます。乳量が出るからといって、利益が増えるとは限らないことが分かりましたから。濃厚飼料に頼らなくても、繁殖をもう少し頑張れば全体の出荷乳量は増えるでしょう?」との言葉が返ってきました。
このお話には、もう少し続きがあります。彼の経営は放牧草を使ったサイレージの活用で大幅に改善されたのですが、これを優良改善事例として発表することになったのです。
その際、地元の農業改良普及センターがデータをまとめてくれたのですが、その報告によれば、自給飼料のTDN(可消化養分総量)生産コストは安くなったわけではなく、むしろ若干高くなっていました。
つまり、栄養価の高い粗飼料を作ることで生産コストが安上がりになったのではなく、摂取量の多い粗飼料を作り上げ、それを最大限に利用することで購入飼料を削減し、利益の増加が生じたことになります。カッコよく言えば、「収益構造が変化した」ということになるのです(表8)。

表8 牛群(経産牛100頭、分娩間隔400日以下)の生産量と濃厚飼料の適正給与量

牛群(経産牛100頭、分娩間隔400日以下)の生産量と濃厚飼料の適正給与量