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生産性・品質向上にチャレンジ No4

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1頭当たり平均乳量9,000kg、乳脂率4.10%、無脂固形分率8.95%、体細胞数12万5,000個、生菌数1,000個未満という経営を築き上げた釧路管内厚岸町の小山裕市さん(35歳)。「時間がかかっても牛には目を掛け、手を掛けることが大切」と強調する。乳質改善に対する取り組み概要について話を聞いた。

牛には目を掛け、手を掛けることが大切

厚岸郡厚岸町 おやま牧場 小山裕市さん

釧路管内厚岸町で耕地面積95ha(共同草地30ha)に総頭数350頭(経産牛220頭)を飼養する小山裕市さんは酪農家4代目。地元の釧路北高校普通科を卒業した当時は、「英語が得意だったので英語教師か、部活で野球をやっていたのでスポーツトレーナーになりたかった」との夢を描いていた。だが、大学受験に失敗。実家の酪農を1年間手伝った後、札幌でアルバイト生活をしながら自分のあるべき将来像について思い悩んだ。
「酪農は自分が自分らしく生きていける商売かもしれない」。酪農の魅力を再発見した小山さんは、牛飼いの道で生きていくことを決意。2003年に実家の酪農に就農した。21歳の時だ。

「牛と人の健康を何よりも最優先にしている」。若い頃、スポーツトレーナーを目指した小山さんらしい言葉だ

「牛と人の健康を何よりも最優先にしている」。若い頃、スポーツトレーナーを目指した小山さんらしい言葉だ

1996年に建てた100頭規模のフリーストール牛舎。小山さんが就農した翌年の2004年に160頭規模に増築した

1996年に建てた100頭規模のフリーストール牛舎。小山さんが就農した翌年の2004年に160頭規模に増築した

8頭ダブルのへリングボーンパーラー。搾乳は朝5時、夕方4時から、小山さんと母(文子さん=58歳)、従業員2人、外国人実習生1人の5人で3時間程度で終了する

8頭ダブルのへリングボーンパーラー。搾乳は朝5時、夕方4時から、小山さんと母(文子さん=58歳)、従業員2人、外国人実習生1人の5人で3時間程度で終了する

2010年、28歳で父寿光さん(73歳)から経営移譲。今年で就農15年目を迎えた。現在、1頭当たり平均乳量9,000kg、乳脂率4.10%、無脂固形分率8.95%、体細胞数12万5,000個、生菌数1,000個未満という経営を築き上げた。特に乳質は、成分的にも衛生的にも全道トップレベルの水準にある。
「特別なことは何もやっていないですよ」と謙虚に語るが、小山さんの話を聞いていると、基本的なことをしっかりと実践することの重要性を再認識させられる。その一例を紹介しよう。
搾乳はプレディッピングの後、前搾りをして乳にブツなどの異常がないかをチェック。その後、乳頭を拭くが、「1回の清拭ではきれいにならない」とさらにもう1回乳頭を丁寧に拭く。もちろん、1頭1布という奨励事項も確実に守っている。乳房が張り、オキシトシンが出てくるタイミングを見計らってミルカーを装着。搾乳後にはポストディッピングも必ず行う。
また、1996年に建てた100頭規模のフリーストール牛舎(その後、160頭規模に増築)の牛床はコンクリートだが、その上に牛床マットを敷き、おがくずをまいて牛の安楽性を確保。搾乳中は牛を待機場に移動させ、除雪用のスクレーパーで牛床の糞を落とすなどのベッドメイクを1日2回行っている。

餌をきっちり食べているか。餌を食べた後、ちゃんとベッドに寝ているか。残飼や糞の状態はどうか…。牛をしっかりと観察し、当たり前のことを忠実に実行することが牛群の好成績につながっている

餌をきっちり食べているか。餌を食べた後、ちゃんとベッドに寝ているか。残飼や糞の状態はどうか…。牛をしっかりと観察し、当たり前のことを忠実に実行することが牛群の好成績につながっている

2015年に建てた哺育舎。最大で30頭を収容できる

2015年に建てた哺育舎。最大で30頭を収容できる

2008年に完成した育成舎には60頭を収容できる

2008年に完成した育成舎には60頭を収容できる

乾乳牛を飼養するパドック

乾乳牛を飼養するパドック

飼料設計も変えた。「単味を減らして配合の割合を増やしたことで、エネルギーバランスが適正になった」と語るように、嗜好性が高まり、採食量が増え、牛の状態も上がり、糞の形状や色も良くなった。乳量も増加傾向を示したという。
一方、夏場に変な下痢をして、腸がおかしくなって倒れる牛が多かったのでカビ毒吸着剤を使ってみたところ、「体細胞数を下げる効果があった」とうれしい誤算もあった。
「牛と人の健康を何よりも最優先にしている」と強調する小山さん。若い頃にスポーツトレーナーになりたいと思っていた小山さんらしい言葉だ。それは、健康の大事さを誰よりも理解しているからにほかならない。
「だからこそ、時間がかかっても牛には目を掛け、手を掛けることが大切」と説明する。無意識の中でやるべきことを着実に実行しているのが、小山さんの最大の強みだと感じた。

バンカーサイロは幅8m×長さ42m×高さ2.2mを5基設置。このほか、スタックサイロやロールなども活用している

バンカーサイロは幅8m×長さ42m×高さ2.2mを5基設置。このほか、スタックサイロやロールなども活用している

抗生物質残留事故や誤搾乳を防ぐため、生乳処理室の壁に張られたステッカーで常に確認している

抗生物質残留事故や誤搾乳を防ぐため、生乳処理室の壁に張られたステッカーで常に確認している

課題は「5年先、10年先、両親が酪農から引退していく中で、人手の確保や頭数規模をどうしていくかだ」と小山さん

課題は「5年先、10年先、両親が酪農から引退していく中で、人手の確保や頭数規模をどうしていくかだ」と小山さん