酪農の雇用対策 第2回
根室管内中標津町の竹下牧場は、牛群管理をIT化することにより若者に魅力的で、未経験者にもなじみやすい酪農の作業環境づくりに取り組んでいる。経営の安定と雇用の確保・充実のための竹下牧場の雇用対策を紹介する。
牧場のIT化で未経験者にも適応
「牛と人が主役の牧場」に向けて
竹下耕介代表
根室管内中標津町で現在、耕地150haに総頭数326頭(経産牛197頭)を飼養する竹下牧場のコンセプトは「牛と人が主役の牧場」である。竹下耕介代表は「乳牛の生産性を上げたり、酪農の生産効率を高めるためには、スタッフの働く環境や福利厚生の充実を図ることがまず必要」と強調する。
230頭規模のフリーストール牛舎内部
同牧場は平成18年に将来的な牧場の多角化を考えて経営を法人化し、着実に規模拡大を進めてきた。同時に牛舎はフリーストール(230頭)、搾乳はミルキングパーラー(12頭ダブル)とするなど牧場施設を整えるとともに、いち早く牛群管理のIT化を進め、作業の省力化と効率化を図ってきた。
IT化は経営安定と雇用確保のため
IT化の背景には、何よりも経営の安定と雇用の確保・充実を実現するという目的がある。竹下代表は「牧場をIT化することにより若者にも魅力的で、未経験者でも仕事になじみやすく、さらには生産効率の向上にもつながる。経営にとっても、働くスタッフにとっても大きなメリットがあるんです」と目を細める。
その上で、雇用問題に関して『誰が日本の労働力を支えるのか?』(東洋経済)と題した単行本を手に、こう熱く語る。「日本は15年前に比べて200万人の労働人口が減っており、15年後には700万人の働き手を失うことがすでに分かっている。労働力が減るということは、生産効率を上げなければ生産を維持できなくなることなんです」と。竹下代表がいち早く牧場のIT化に取り組んだ意味もそこにある。
牧場スタッフ全員にスマホを支給
具体的には、発情検知・健康管理を支援する飼養管理システム「アフィミルク」と、クラウド型牛群管理システム「ファームノート」などを導入。6人の牧場スタッフ全員にスマートフォンを支給し、その場で乳牛の疾病や繁殖、作業履歴などのデータを入力してもらっている。これらによって乳牛の個体情報はもちろん、労務や集乳・個体販売などの情報も全員で共有している。竹下代表は「牧場のすべてを“見える化”することにより、自分の行っている仕事の成果が分かる。それがやりがいにつながる」と言って大きくうなずいた。
大切な毎日夕方のミーティング
現在、竹下牧場のスタッフは6人。ミーティングを通して横の連携も強めている
スタッフのやりがいを生産効率の向上につなげる大切な時間が、毎日夕方の搾乳前に行われる20分間のミーティングだ。そこで全員が情報交換する中で、PDCA(plan-do-check-action)サイクルを回して労働の質と効率を高める。また、各人が仕事上の悩みを仲間に打ち明けたり、切磋琢磨することにより、技術レベルを向上させていくという狙いもある。
作業中のスタッフとの情報交換はとても重要な時間
コミュニケーションや技術が向上し、生産効率が高まった成果は休日増という形でスタッフに還元される。今年4月から「竹下牧場の働き方改革を実現しよう」と、週1回の休み+有給休暇(勤務年数により年間10~16日)に加え、さらに「月にもう1日ずつ休日を増やそう」という取り組みを進めているところだ。
「酪農のイメージががらりと変わった」
今年1月から知人の紹介により竹下牧場で働いている井口卓弥さんは「私の実家も酪農家ですが、ここの牧場はこれまでの酪農経営のスタイルとは全く違っていて楽しい。スマートフォンですべての乳牛の状態が把握できるのは驚きで、酪農のイメージががらりと変わった。いつかは未来型の酪農を自分で経営してみたい」と言って目を輝かせた。
働いている人がハッピーな牧場に
竹下牧場の牛舎施設全景
竹下代表は「酪農は農業の中でも最先端で特殊性があり、そこに魅力を感じている。食べ物は命をいただくことであり、酪農は命を生み出す産業。そうした魅力をもっとアピールしたい」と語り、将来は酪農の6次産業化も視野に入れている。
「今後は牛舎内の自動化も積極的に進めていく」と竹下代表は強調する
その上で「まあ、そんなきれい事ばかり言っても働く環境が本当に良くなければ、スタッフはなかなか長続きしないのが現実。一番大事なのは仕事や休日、やりがい、プライベートのバランスを含め、そこで働いている人がハッピーじゃないといけないよね」と竹下代表は自分自身に気合いを入れた。