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酪農の雇用対策 第8回

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十勝管内上士幌町のとかち村上牧場(村上靖代表)は「酪農へのチャレンジの敷居を下げたい」との想いから、フリーストール+パーラー施設に加え、つなぎ飼い牛舎5棟を併設。従業員は、新規就農を模擬体験するような感覚で働くことができる。村上智也副代表(35歳)に酪農の雇用問題について話を聞いた。

酪農へのチャレンジの敷居を下げたい

とかち村上牧場(十勝管内上士幌町)

十勝管内上士幌町で、耕地面積120haに総頭数600頭(搾乳牛420頭)を飼養するとかち村上牧場には、新規就農の模擬体験ができる日本唯一の施設群が広がっている。大規模経営で普及するフリーストール+ミルキングパーラー施設を活用する一方で、60頭規模のつなぎ飼い牛舎5棟を併設しているのだ。
同牧場の村上智也副代表は「通常はどちらかの牛舎だけを導入しているケースが多いですが、当牧場では実家の酪農を継ぐ予定の人、酪農を一生の仕事にできるぐらいの技術を身に付けたい人、新規就農を視野に入れている人などに、しっかりと酪農経験を積んでほしい。そんな想いから、両方の設備を導入しました」と強調する。
フリーストール牛舎で酪農の基礎となる技術をしっかりと身に付け、その後はつなぎ飼い牛舎で1人1棟を担当させる。一通りの管理(搾乳、給餌、体調、繁殖等)ができるように酪農をトータルで経験し、学ぶための仕組みが構築されている。つまり、同牧場では自分自身で牧場を持ち、新規就農するような感覚で酪農の仕事を覚えていくことが可能なのだ。

村上智也副代表

村上智也副代表

とかち村上牧場の全景。「近い将来、牧場を法人化し、待遇や社会保険面なども整備していきたい」と村上副代表

とかち村上牧場の全景。「近い将来、牧場を法人化し、待遇や社会保険面なども整備していきたい」と村上副代表

2013年に建てた60頭規模のつなぎ飼い牛舎5棟。手前は哺育施設。1人1棟を担当させて、技術や経験、人柄、経営センスなどに磨きを掛ける

2013年に建てた60頭規模のつなぎ飼い牛舎5棟。手前は哺育施設。1人1棟を担当させて、技術や経験、人柄、経営センスなどに磨きを掛ける

村上副代表は、「『酪農へのチャレンジの敷居を下げたい』という想いで、このような設備や仕組みをつくりました。酪農の仕事に楽しさを感じれば、必ず自分の牧場を持ってみたいという夢が出てきます。まずは牧場で働いてみて、やっていけそうだったら独立を目指す。酪農をやってみたいと感じた人が気軽に酪農を始めて、目標が見つかった人には積極的に独立できるような環境を用意していきたいと考えています」と説明する。
その上で、「一つの牧場が単体で規模拡大をするから、その経営を維持するために人が必要になる。人だけでなく施設や牛も必要になり、投資額が大きくなる。それだったら牧場の数を増やしていった方が無理がないというのが当牧場の考え方。新規就農者を増やしていき、のれん分けしてネットワークを横に広げていくことが理想」と語る。
同牧場に勤めて3年目になる布谷亮さん(24歳)。近隣の実家では以前、酪農を経営していたが、情勢が厳しさを増す中で数年前に離農してしまった。布谷さんは「わが家はフリーストール牛舎だったので、つなぎで牛を飼うのは初めての経験。個体管理ができるつなぎ飼いの良いところ、悪いところも分かってきた。ここの牧場で技術と経営センスを磨き、10年以内に自分の牧場を持ちたい」と力強く語る。

とかち村上牧場には、新規就農を夢見る若者が次々と集まってくる(前列右端が布谷さん)

とかち村上牧場には、新規就農を夢見る若者が次々と集まってくる(前列右端が布谷さん)

つなぎ飼い牛舎では、1棟ごとの状況を各自が把握できるので、自分の課題や目標、成果を認識でき、やりがいを感じて働くことができる

つなぎ飼い牛舎では、1棟ごとの状況を各自が把握できるので、自分の課題や目標、成果を認識でき、やりがいを感じて働くことができる

フリーストール牛舎内部。つなぎ飼いと合わせて、牛群の平均乳量9,000kg、乳脂率3.8%、無脂固形分率8.7%。年間出荷乳量は4,200t

フリーストール牛舎内部。つなぎ飼いと合わせて、牛群の平均乳量9,000kg、乳脂率3.8%、無脂固形分率8.7%。年間出荷乳量は4,200t

25年ほど前に建てた8頭ダブルのヘリングボーンパーラー。2005年には40ポイントのロータリーパーラーも新設したが、経営方針の変更などもあり、現在は使用していない

25年ほど前に建てた8頭ダブルのヘリングボーンパーラー。2005年には40ポイントのロータリーパーラーも新設したが、経営方針の変更などもあり、現在は使用していない

その言葉を聞いていた村上副代表は、「私は全国各地を歩き回り、酪農で新規就農したいという人材をもっと探したいと思っています。新規就農者が増え、そこでさらに雇用が生まれると、それが地方創生にもつながり、日本酪農のパイを広げ、地域経済を活性化することにもなる。そのためには、魅力ある酪農をつくることも大切ですし、自立する力を育てることも必要。そうした活動を今後も続けていきたいですね」と力を込めた。

従業員のアパート群の1棟。現在、構成員(家族)4人のほか、外国人6人を含む従業員16人を雇用。全20人で牧場を運営している

従業員のアパート群の1棟。現在、構成員(家族)4人のほか、外国人6人を含む従業員16人を雇用。全20人で牧場を運営している

とかち村上牧場のロゴマーク。将来的にはヨーグルトの製造・販売なども視野に入れており、酪農の6次産業化にも積極的に取り組みたいと言う

とかち村上牧場のロゴマーク。将来的にはヨーグルトの製造・販売なども視野に入れており、酪農の6次産業化にも積極的に取り組みたいと言う