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牛群検定情報を飼養管理に活かそう!

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No1「体細胞数」について考える

(一社)家畜改良事業団 情報分析センター首席専門役相原 光夫

前回までは「繁殖」に関する牛群検定情報を紹介してきましたが、今回からは飼養管理全般に範囲を広げ、牛群検定情報の活用方法を紹介していきたいと思います。第1回は「体細胞数」について考えてみましょう。体細胞数は、乳質を左右する大きな要因の一つです。乳価にも影響する大切な情報ですが、飼養管理や健康管理面などにも広く利用できます。

1.体細胞数とは

体細胞数とは「乳汁の白血球と脱落上皮細胞」を総称したものです。
乳房炎に罹患すると体細胞数が高くなるという特徴があり、牛群検定では図1のように、乳房炎との関係をリニアスコアによって整理しています。リニアスコアとは、体細胞数を対数変換したものです。1桁の整数で表示しており、牛群管理を行いやすくしたものです。

図1 牛群検定における乳房炎の目安

図1 牛群検定における乳房炎の目安

2.体細胞数の改善とは

体細胞数の改善には次の四つの意義があり、酪農経営にとって欠かすことのできないものです。

(1)高品質生乳の生産

体細胞数の改善とは、乳質を高め、消費者に「おいしさ」を提供するものです。生乳需要の拡大、さらには有利な乳価にもつながります。

(2)生産寿命の延長

体細胞数は加齢とともに増加する傾向にあるため、体細胞数の改善を行わないと、働き盛りの産歴の高い3産以上の牛を失うことにつながります。

(3)乳量損失の削減

体細胞数が増加すると、泌乳量は減少します。体細胞数を改善することで、本来の泌乳能力を発揮できます。

(4)治療費などコスト削減

乳房炎に罹患すると、その治療費や、それに費やすあなたの労働力も無駄になります。

3.体細胞数情報の特徴

2017年の北海道での検定日における体細胞数の度数分布を図2に示しました。体細胞数の度数分布は左右対称の正規分布ではなく、極めて左側に偏った分布となっており、数学的には対数分布に近いといわれています。平均値はバルク乳の体細胞数相当を示すもので、酪農家にとって重要な値です。しかし、このような特殊な分布を示す形質においては、平均値だけではその特性を十分に示すことができません。例えば、北海道の体細胞数の年間の平均値は23万2000個ですが、乳房炎の要診断の目安である28万3000個と照らし合わせると「北海道の半分近くの牛が乳房炎か?」と勘違いしてしまいます。なぜ、このようなことが起きるかといえば、体細胞数の高い牛は極端に高く、400万個、500万個という牛が1頭いるだけでも、平均値を引っ張り上げてしまうからです。
このような度数分布なので、図2に示した健康牛、要注意牛、要診断牛の三つの区分における各比率が重要となります。北海道で乳房炎の診断が必要な牛は15.5%だと分かります。また、中央値は5万8000個ということから、北海道の半分の牛は健康であることも分かります。

図2 2017年体細胞度数分布(北海道)速報

図2 2017年体細胞度数分布(北海道)速報

4.体細胞数情報の活用1

前述した通り、バルク乳の体細胞数は400万個とか500万個という牛が1頭いるだけで引き上げられてしまうので、このような牛を特定することが先決です。図3に示したように、検定成績表ではリニアスコアの▲マークをチェックすれば容易に対象牛を見つけることができます。
「(リニアスコア)5以上個体別影響率」を用いれば、さらに効率的です。例えば、図3の「5以上個体別影響率」で「27」と表示されている検定牛1頭で、検定日のバルク乳の体細胞数の27%を占めていることを意味します。逆に言えば、この検定牛1頭をバルク乳に合乳せずに廃棄すれば、バルク乳の体細胞数が27%も低減できることになります。この例での対象牛は、検定日数も287日と泌乳後期であることから、早めに乾乳し、乳房炎治療に専念することを検討した方が良いかもしれません。

図3 検定成績表(個体検定日成績)

図3 検定成績表(個体検定日成績)

5.体細胞数情報の活用2

図4は、牛群検定成績表の1枚目「農家成績」の中央に記されている「移動13カ月成績」のうち、年間の体細胞数平均をA農家とB農家で比較したものです。両農家の体細胞数平均は31万1000個と33万3000個でどちらも要改善のレベルであり、同じような体細胞数です。しかし、この2戸の農家において、より重篤な状態になっているのは実はA農家です。
A農家の検定成績でリニアスコア「2以下」の健康牛は32%になっています。北海道平均が55.6%ですから、A農家は健康な牛が極端に少ない状態であることが分かります。これに対し、B農家は年平均で健康牛が51%と、北海道平均とほぼ同じ程度の成績となっています。B農家は一部の搾乳牛が無乳性レンサ球菌のように体細胞数が特別に高いタイプの乳房炎を罹患していることが多く、A農家は黄色ブドウ球菌のように難治性の乳房炎が牛群全体に潜在していると考えられます。自ずとその対策は違ってきます。B農家の場合は、体細胞数の高い牛の乳は出荷乳に混ぜないようにした上で、牛も隔離して治療に専念するのが即効性のある一般的な対策です。しかし、A農家の場合は既にまん延してしまっているので、即効的な対策は打てません。
このように、体細胞数の改善を実行するには、目先の1頭1頭だけでなく、牛群全体で健康な牛がどれぐらいいるかという点に注目することも必要です。

図4 検定成績表(年間の体細胞数平均)

図4 検定成績表(年間の体細胞数平均)

6.いろいろな乳房炎

乳房炎は、原因となる細菌などによって何通りにも分類されます。バルク乳スクリーニング検査などを行えば、牛舎で問題となっている乳房炎のタイプを特定し、獣医などと相談しながらそれぞれ必要な対策を講じることができます。さらに、牛群検定と組み合わせて行えば効率的な改善が行えます。そこで、主な乳房炎のタイプについて紹介しましょう。

(1)黄色ブドウ球菌(SA)・伝染性

黄色ブドウ球菌は化膿細菌で、乳頭の傷や人の手から感染する慢性化してしまうことの多い乳房炎です。黄色ブドウ球菌は乳房深部まで入り込むので、治癒が困難な場合が多く、保菌牛が牛群全体に広がってしまいます。ブツが出る、しこりがあるといった症状のほかに、冬季に乳頭の肌荒れ(乾燥、ヒビ)から罹患したり、夏季に乳頭口の荒れからも罹患します。このことから、牛群検定では「夏季と冬季の体細胞数が高い」という特徴で表れます。

(2)無乳性レンサ球菌(SAG)・伝染性

牛群検定では、体細胞数が100万~1000万個と著しく高くなるのが特徴の乳房炎です。隔離治療が必要ですが、抗生物質製剤での治療が有効です。乾乳期で完治させるようにします。

(3)マイコプラズマ・伝染性

最近、注目されている乳房炎です。マイコプラズマとは、細菌より小さい微生物で、一般の細菌検査では検出することが出来ません。発症してしまった場合は、他に感染しないように早急に隔離する必要があります。有効な治療法がないため、淘汰も視野に入れて検討する必要があるので、獣医師と相談してください。

(4)環境性ブドウ球菌(CNS)・環境性

環境性ブドウ球菌は、乳頭の皮膚、乳房の毛などに常在している細菌です。搾乳において、清拭が不十分であったり、雨で濡れた牛体を乾燥させずに搾乳を行ったりした場合に多い乳房炎です。夏季に多いとされています。

(5)環境性レンサ球菌(OS)・環境性

敷きわらなどに常に存在する細菌です。ふん便などで汚染されたときに罹患しやすい乳房炎です。治療が難しい場合が多く、年中発生します。

(6)大腸菌群(CO)・環境性

大腸菌による乳房炎は重篤で甚急性となることが多く、死亡する場合もあります。大腸菌は、ふん便、敷きわらなどに存在します。衛生環境と深く関与しています。夏季~秋季に多いとされています。