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牛群検定情報を飼養管理に活かそう!

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No5 遺伝的改良と飼養管理は車の両輪

(一社)家畜改良事業団 情報分析センター 部長相原 光夫

今回は、遺伝情報について取り上げたいと思います。飼養管理をタイトルとしながら、遺伝情報と言うと違和感を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、遺伝的改良と飼養管理は対立するものではなく、車の両輪のようなものです。遺伝的改良を効率良く進めるのも、遺伝能力を最大限に発揮させるのも、まず飼養管理が適切であることが必要です。

1.最近の遺伝的改良の状況

(1)概況

家畜改良センターのホームページには、乳用種の遺伝評価の結果が掲示されています。図1は、25年にも及ぶわが国の遺伝的能力の年次的変化です。ベース(ゼロ点)を2010年生まれの検定牛(雌)にしてあります。グラフ上、雄(種雄牛)が雌よりも遺伝的に高能力となるのは「雄として登録されるのは、高能力な雌から計画的に生産された極少数に限られる」ためと考えられます。1992年から2016年までの25年間で生まれた雌では、1642kgもの遺伝的改良が達成されたことを意味します。

図1 泌乳形質の遺伝的能力の年次的変化

図1 泌乳形質の遺伝的能力の年次的変化

図2は、最近10年間での年当たり改良量です。すると、雌(検定牛)の乳量は2007年から16年の10年間で年当たり58.3kgの改良量を示しています。また図2では、各乳成分率の年当たり改良が±0に近い値になっています。これは、現在の遺伝的改良の要である種雄牛選抜の総合指数(NTP)が「乳成分率を下げずに乳量、乳成分量と生産寿命の改良量が最大となる」ような重み付けを行った指数である-に負うところが大きいと考えられます。

図2 泌乳形質における年当たり改良量

図2 泌乳形質における年当たり改良量

(2)地方別

このように、一見すると順調に進んでいると考えられる改良ですが、図3に示した地方別の遺伝評価を見ると大きな差が生じています。北海道と都府県という見方をすれば、近畿地方を除いて北海道の評価値が最も大きいことになります。しかし、北海道内を地区別に見ると、評価値には大きな差が生じています。詳細は後ほど解説します。

図3 現検定牛の泌乳形質の(G)EBVと乳代効果の地方別平均

図3 現検定牛の泌乳形質の(G)EBVと乳代効果の地方別平均

2.遺伝的改良と飼養管理

(1)地方別遺伝評価

地方別や地区別ではなぜ、遺伝評価に差が生じているのでしょうか。わが国で流通している精液は、国産や輸入にかかわらず、基本的に自由に全国流通しています。従って、農家別では交配種雄牛の選び方によっては、低能力種雄牛に偏重して使用してしまうことが起こり得るかもしれません。しかし、地方全体である種雄牛に偏重した使い方をして、遺伝的な改良量の大きな差になるとは考えづらいものです。この原因はいろいろと議論されていますが、一つの要因として飼養管理に注目してみたいと思います。

(2)交配方法

図4に、遺伝的改良を行うための交配の考え方を示しました。牛群の上位2分の1から後継牛を生産することが基本となります。できれば、性選別精液で雌牛が効率的に生まれれば理想的です。下位3分の1は交雑種生産や受卵牛として利用します。要は「優秀な雌牛から後継牛を取りましょう」という意味です。この交配方法は特に難しいものでなく、誰もが分かっている交配方法です。ところが、このシンプルな交配方法には飼養管理の良し悪しが大きくかかわってきます。

図4 遺伝的に優秀な雌牛の選定

図4 遺伝的に優秀な雌牛の選定

(3)飼養管理

図5は、各農家に年3回届けられる「牛群改良情報」に表示しているグラフです。遺伝情報として「産乳成分」と「乳代効果」の二つを表示しています。まず、良い傾向から記しますと、グラフが右肩上がりとなっており、若い牛ほど改良が進んでいる点が挙げられます。次に課題ですが、それぞれ実線(除籍牛を除く)と点線(除籍牛を含む)で二重に表示されています。
実線が除籍牛を除いた遺伝情報ということは、牛舎で現役で活躍している牛ということになります。もし、除籍牛を含む点線より下位に実線があれば、それは優秀な牛を除籍(淘汰)したことになります。すると、前述の「優秀な雌牛から後継牛を取る」というシンプルな交配方法は、既に優秀な雌牛が失われていることになります。よって、実線が下位にくることが多い本例は好ましくない例となります。
では、なぜこのようなことが起きるのでしょうか。それは飼養管理に不適切なところがあり、周産期病をはじめとする疾病や事故があるからです。疾病や事故は、遺伝能力と無関係に発生します。当然、優秀な遺伝的能力を持った牛でも、飼養管理が不適切であれば、疾病や事故により十分にその能力を発揮することなく、かつ後継牛を生産することなく除籍(淘汰)されることにつながります。
逆に考えれば、このグラフで点線が上位にある農家は、飼養管理に課題がある農家であるともいえます。

図5 牛群改良情報(農家情報)

図5 牛群改良情報(農家情報)

3.優秀な雌牛

(1)北海道内の遺伝評価

図6に、道内各地区における泌乳能力の遺伝評価値を示しました。図3の地方別と同様に大きな差が認められます。地方や地区でこれだけ大きな差があるとなると、遺伝的改良を行う第一歩である「優秀な雌牛」をどのように判断すれば良いでしょうか。
乳量+200kgという評価値を持つ牛がいたとして、ある地区では平均以上の優秀な雌牛となりますが、別の地区では平均以下の雌牛となってしまいます。

図6 現検定牛の泌乳形質の(G)EBVと乳代効果の地方別平均

図6 現検定牛の泌乳形質の(G)EBVと乳代効果の地方別平均

(2)牛群内評価とパーセント順位

図7に、農家に配布される「牛群改良情報」(個体情報)を示しました。優秀な雌牛を判断するための指標には「牛群内評価」(牛評)と「パーセント順位」を利用すると便利です。牛群内評価は図8に示したように、農家ごとの平均値と標準偏差を基に10段階評価するので、農家内での優秀な雌牛を判断できるようになっています。また、パーセント順位は、全国順位となります。例えば、仮に全国に47万頭の牛がいたときにパーセント順位1%とは、全国順位が4700番(=47万頭×1%)以内の優秀な雌牛ということを意味します。

図7 牛群改良情報(固体情報)

図7 牛群改良情報(固体情報)

図8 牛評における10段階評価の出現頻度

図8 牛評における10段階評価の出現頻度