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No2「除籍理由」について考える

(一社)家畜改良事業団 情報分析センター 部長相原 光夫

今回は、総じて見過ごされがちな「除籍理由」について紹介します。検定農家の皆さんは検定立会のとき、除籍され牛舎からいなくなってしまった牛について、その除籍理由を正しく検定員に報告していますか?除籍理由は乳量や乳成分と異なり、農家の申告がすべてです。除籍理由は、酪農家の飼養管理の弱点を端的に示すものであり、飼養管理改善に大きく役立つものです。検定立会時に正しく報告するようにしましょう。

1.除籍理由の報告と現況

除籍の情報を活用するためには、除籍理由を正しく判断して報告することが大前提です。除籍理由は図1のように、その内容が定義されています。間違えやすいところを説明します。

図1 除籍理由コード

図1 除籍理由コード

・繁殖障害

獣医師に診断された場合は当然、「繁殖障害」による除籍となります。診断がなくても、結果として「受胎しない」ことが淘汰の理由であれば、同じく「繁殖障害」が除籍理由となります。

・乳用売却

「売却先でも搾乳されることを期待する」と図1に記していますが、実際に売却先で搾乳しているかどうかは問いません。「健康な牛を除籍した」という事実が、この理由の根拠です。従って、繋ぎ飼い牛舎で「どうしても1頭出さないと牛があふれる」という場合も乳用売却です。単純に「家畜商に売却したから…」というものではありません。

・低能力

低乳量、低成分の牛の淘汰が基本ですが、性格なども能力の一つと考えます。従って、「蹴る」などの悪癖を持つ牛の淘汰もこの分類となります。

・死亡

突然死だけでなく、選択肢にない疾病により回復の見込みがなく、「と畜」した場合も含みます。

・その他

検定の際に除籍理由を失念していると、調査するのも面倒なので、ついつい「その他」を除籍理由にしていませんか。正しく調査して報告しましょう。

図2に、2016年の北海道内における除籍理由の状況を示しましたので、参照してください。

図2 北海道における除籍理由(2016年)

図2 北海道における除籍理由(2016年)

2.除籍理由の活用

図3に、実在するA農家の成績表を示しました。この図は、直近1カ年で牛を失った理由の一覧です。この農家で多く発生している飼養管理上の課題が明確に浮き彫りになっています。
この農家は「肢蹄病」が多く発生しており、肢蹄管理が最大の飼養管理改善の課題です。次が「繁殖障害」、その次が「乳房炎」です。正しく除籍理由を報告していれば、このように改善ポイントが自明になります。
肢蹄病のチェックポイントとしては、まずは削蹄です。そして、四肢に傷がないことです。
削蹄が定期的に行われているか、牛の起居の際に四肢に傷をつけていないか-などを確認してください。また、この農家では消化器病が発生していませんが、もしルーメンアシドーシスも発生しているようであれば、蹄葉炎が合併症となることも知られています。この場合は、給与飼料の粗濃バランスを見直さなければなりません。また、蹄が原因ではなく、飛節の腫れ(関節周囲炎)が原因であれば、牛床の状態(硬さや汚れなど)を確認し、改善することが必要となります。イボなどはウイルス性の疾患であることも知られていますので、この場合は獣医師に相談してください。
肢蹄病は乳量や体細胞数、繁殖成績にも影響を与えることが知られています。この農家でも繁殖障害や乳房炎が次の改善ポイントとなっていますので、肢蹄病を改善することで、一緒に改善することも期待できます。

図3 A農家(検定成績表中央下部)

図3 A農家(検定成績表中央下部)

3.検定成績との関連

前述のA農家は肢蹄病がポイントでしたが、ほかの除籍理由におけるチェックポイントを紹介します。

(1)乳房炎

体細胞数との関連が大きいので、検定成績表の体細胞数をチェックしてください。一般的に、牛床管理や搾乳方法に課題があることが多いです。

(2)乳器障害

乳器損傷は乳器が大きく下がり、蹄などで傷つけてしまうことが主な原因となります。さらに、乳器が大きく下がる要因として浮腫が代表的です。浮腫は分娩前後の飼養管理、特にミネラル給与などに課題があることが知られています。また、遺伝的に乳房付着が弱い牛が多いときは、種雄牛による遺伝的改良が有効です。

(3)繁殖障害

検定成績表の各繁殖成績を参照し、受胎率や分娩後初回授精、発情見逃しなどをチェックしてください。また、乳房炎や肢蹄病、低カルシウム血症など、ほかの病気との関連性が高いことも知られていますので併せて確認してください。

(4)消化器病

飼料給与に課題があることが知られています。検定成績表のP/F比やMUNなどから、濃厚飼料やタンパク飼料のバランスをチェックしてください。

(5)起立不能

乳熱が多く発生する事例です。分娩前後のカルシウム給与方法を再確認してみてください。分娩前のカルシウム制限はよく知られていますが、最近ではカルシウム給与を分娩前でも継続する方法も提唱されています。地域の酪農指導者とよく相談してみてください。

4.除籍頭数

図3の農家Aの除籍理由においてもう一つ、大事なポイントがあります。年間で除籍される頭数です。1年間で除籍される頭数は未経産牛が5頭、経産牛が28頭(=5頭+5頭+18頭)です。仮に、特に飼養管理改善が進まなければ、来年度の淘汰頭数も28頭程度と考えることができます。現在の未経産牛が42頭(=47頭-5頭)ですから、この農家の場合の未経産牛の確保は十分と思われます。
もし、経産牛の除籍頭数を下回る未経産牛頭数である時は注意が必要です。この場合は将来、搾乳牛不足となる可能性があると思われます。

5.道内での除籍理由状況

図4に、道内における最新の除籍理由の状況を示しました。ご自分の経営の改善ポイントを見付けるのに、最新の道内平均もしくは各地域での平均と比較することも有効な活用法です。この資料は北海道酪農検定検査協会のホームページ上で、前月までの全道と各地域の最新の状況が示されています。
前例のA農家の場合、全道と比較しても肢蹄病の発生頻度が高く、改善が急務であることが分かります。また、除籍日までの年齢が、全道ではすべて5歳台となっていますが、A農家では4歳台が多く、若くして牛を失っていることが分かります。長命連産性においても、A農家は課題があることになります。

図4 北海道 平成30年5月

図4 北海道 平成30年5月

北海道酪農検定検査協会 http://www.hmrt.or.jp/bnshk.html
全道および各地域の最新月での情報が掲載されています。