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No8 多回搾乳について考える

(一社)家畜改良事業団 情報分析センター 部長相原 光夫

今回は、牛群検定における多回搾乳について紹介します。多回搾乳とは、3回搾乳以上を指します。広い意味では搾乳ロボット(自動搾乳)も含みますが、ここでは“3回搾乳”を中心に紹介します。

1.3回搾乳

生乳生産の増強が叫ばれていますが、増頭には施設上の制約から限界があります。古くから知られている乳量アップの方法に3回搾乳があり、仮に労働問題がクリアできれば3回搾乳を検討する人も多いのではないかと思います。しかし、3回搾乳の検定成績を集計した結果からは独特の飼養管理があることが明らかになっており、実施するにはかなりの注意が必要です。

2.乳量が増える理由

多回搾乳において乳量が増える理由はいろいろな要因がありますが、よくいわれている学説(2004,Dahl)を紹介します。多回搾乳が行われると、乳頭への搾乳刺激が通常より多いことになります。その刺激は、脳下垂体ホルモンであるプロラクチンの増加を促します。プロラクチンは、乳腺細胞の分化を促進するため、乳腺細胞数が増加することになります。乳腺細胞の数と乳量には正の相関があり、結果として乳量が増えるとされています。

3.牛群検定における3回搾乳

3回搾乳には、大きく次の2通りがあります。乳量が多い時期の牛群だけを3回搾乳する場合と、群分けせずに常時3回搾乳する場合です。前述の理論から3回搾乳を行った牛は、乳腺細胞の分化が進むため、泌乳後期に3回から2回搾乳に戻したとしても、その影響は残ります。このため、牛群検定ではこれらのケースを区別せずに、どちらも3回搾乳牛としています。
また以前は、一部の高乳量が期待される数頭の牛だけを泌乳ピーク期限定で3回搾乳するというケースもありましたが、現在ではほとんど行われていないようです。このケースで仮に一度でも3回搾乳を行えば、牛群検定では3回搾乳牛として扱われます。

4.検定実施状況

表1に多回搾乳の検定実施状況を示しました。3回搾乳は始めようと思えば、誰でも実施できる酪農技術なので、牛群検定では特にマスター管理をしていません。従って、表1は毎月の実際の検定結果の報告から集計したものです。2018年の北海道では、24戸で3回搾乳が実施されています。注目点は“1戸当たり”です。3回搾乳農家は1戸当たりの搾乳牛頭数が402.3頭と大規模経営体で実施されていることが分かります。
なお、牛群検定では1頭でも3回搾乳の牛がいれば3回搾乳農家に数えるようになっていますが、本集計では数頭しか3回搾乳牛がいない農家は含んでいません。

表1 2018年 検定実施状況(※)

表1 2018年 検定実施状況(※)

5.検定成績

(1)乳量

図1および表2に305日の検定成績を示しました。3回搾乳牛の乳量は1万1,343kgと、2回搾乳と比較して約1.2倍もの乳量となっています。同じ多回搾乳の自動搾乳と比較しても多い乳量です。このことは最近、自動搾乳の場合は乳質対策として搾乳回数を3回程度と設定することが増えているので、実質2回搾乳の牛も自動搾乳に含まれていることなどが要因と考えられます。

(2)各乳成分

3回搾乳牛の各乳成分は、2回搾乳と比較して低いと言わざるを得ません。乳量が高い分ある程度仕方がないのですが、仮に現在の乳成分が低い農家が3回搾乳への移行を検討されているならば、さらに低成分となるので十分に留意する必要があります。

(3)飼料関係

3回搾乳牛の濃厚飼料給与量は、305日累計で4,226kgと極めて高くなっています。2回搾乳牛と比較して約1.3倍にもなります。乳量が多い分、また乳成分が下がってしまう分を濃厚飼料でカバーしようとして多給になっていると考えられます。しかし、多給の結果、飼料効果(乳量÷濃厚飼料給与量)が2.7と下がっているようです。同じ多回搾乳の自動搾乳では、給与量そのものは増えていますが、飼料効果は3.1と高まっています。これは、自動搾乳では粗飼料主体の混合飼料であるPMR(パートリーミックスドレーション)と、搾乳ロボット内で個体管理された濃厚飼料給与により、飼料の管理が一層システム化されたものとなっているからだと考えられます。

図1 2018年305日検定成績【北海道】

図1 2018年305日検定成績【北海道】

表2

表2

6.季節変化

図2に、参考として2018年の1~12月の乳量、乳成分、濃厚飼料給与量の季節変化を示しました。9月がちょっと不自然に動いていますが、これは北海道胆振東部地震による爪痕になります。特に乳量と蛋白質率については、3回搾乳でも季節変化することが分かります。
しかし、乳脂率については動きが非常にガタガタしており安定していません。例数が少ないことも一つの要因と思われますが、濃厚飼料給与量の飛び抜けた高さからいって、TMRの調製不足により粗飼料が分離し、選び食いが発生している農家が多いことも考えられます。

図2 2018年月別検定成績【北海道】

図2 2018年月別検定成績【北海道】

7.まだまだ検討が必要

ここまで取り上げたように、3回搾乳という技術は確かに乳量を大きく引き上げる技術かもしれません。しかし、乳成分は低成分となりやすく、飼料に関しては濃厚飼料を多給しがちとなっています。さらに、飼料効率の悪いものとなってしまう傾向が見えることから、TMRの調製(長さ、水分等)、群飼での社会序列(いじめ)が発生している農家が多いことも推察されます。3回搾乳を実施・検討する場合は、こうしたことを十分に考慮する必要があります。3回搾乳については昔からある技術なので見過ごしがちですが、大規模化が進んだ現代酪農では、まだまだ検討しなければならないことが多く、新技術と言っても過言ではありません。